激闘、始まる。
Zenが一手目を右上に打った。最初のフェイズは「序盤」だ。国取り合戦である囲碁では、最初からいきなり互いの石をぶつけあって戦争することはあまりない。まずは広い盤面に石を置いていき、「このあたりを自分の陣地にします」と主張していくことになる。
Zenの一手目に対して、小沢氏は左下の隅に二手目を放った。囲碁ではまず4つの隅から石を置いていくことが多い。これにはちゃんとした理由がある。
こちらをご覧いただきたい。中央、辺、隅でそれぞれ陣地を獲得した図である。囲った陣地の数はいずれも「12」で同じだが、囲んでいる石の数はかなり違う。隅で陣地を囲うのに必要な黒石は7個だが、辺では10個、中央ではなんと16個も消費している。つまり、囲碁でもっとも効率よく陣地を囲える場所は「隅」なのだ。だからZenも小沢氏も、まずは「隅」に石を置いて自陣としていく構えを見せたのである。
……ということでお互いに隅をとりあい、続いて次に効率よく陣地を囲える「辺」へと石を進めていく。石同士をあえてバラバラに配置していく手もあるが、今回は小沢氏、Zen共にお互いの石を何となくゆるやかに連結して大きくふんわりと陣地を囲んでいく戦法をとったようだ。念のため、この場面での二人の意図を解説しておくと、
このようになる。左辺の上下に大きく陣地を形勢した白に対して、黒は上と下を獲得しながら左の白陣へ向かって少しずつ詰め寄っているような格好だ。
さて、ここで注目すべきは右辺である。ここはまだ黒白どちらも手を付けていない未開の地。先に石を置いた方が有利になる。ちょうど今は白が打つ番なので……。
小沢氏は八手目を右辺に叩き込んだ。逆にこの場所に黒に打たれてしまうと、右上と右下に黒石があることも手伝って、右辺一帯がかなり黒っぽくなってしまう。それを防ぐ意味でも、この八手目は好手であった。しかし、黒としては狙っていた右辺に白石が入ってくるのは面白くない。しかもよく見ると、今入ってきた白は孤立しているではないか。
それなら、この白を攻め立ててやろう。黒側のZenはそう考え、そして動いた。……続きを読む