筆者は世界のいろいろな携帯電話市場を見てきたが、特に異質だと感じるのが米国と日本のそれだ。プリペイド普及率が低いという事情とリンクしているが、契約縛りと引き替えに端末が安価に入手でき、これにぶら下がるポストペイドユーザーが多い。米国では0円端末が多く、ハイエンド端末でさえ100~200ドル程度で入手が可能だ。他国で契約縛りによる割引や端末販売の可否が行われていないわけではないが、その傾向が特に強いと感じる。携帯キャリアは新規端末を販売したぶんだけ、損失を被る形となる。逆に欧州の関係者に話を聞くと、同市場では「(200ユーロ以下の)安い端末」や「型落ち品」を好む傾向が強いという。保守的な風土というのもあるが、やはりプリペイド比率が高く「端末を少しでも安価に入手したい」という意向が働くようだ。米国と日本以外でのiPhone普及率が低いのも、こうした事情が反映されているからと思われる。

この「年契約縛り+割引販売」手法を最初に日本に導入したのはソフトバンクだったと記憶しているが、日本ではその傾向がさらに顕著に出ている。日本では、最新のiPhoneでさえ「実質0円」での販売が行われている。最近、海外の報道関係者ら複数から「なんで日本はそんなにiPhoneが普及してるんだ? 」と質問され「Android端末を買うよりiPhoneを買ったほうがずっと安いから」と返答すると、一様に驚きの表情を見せる。「ハイエンド端末ばかりが売れる」という、ある意味で世界で最も特異な市場となった日本だが、これは携帯キャリア同士の過度な競争がもたらした効用(副作用ともいう)だといえる。実際、過去に携帯キャリア各社はハイエンドからローエンドまで幅広く製品レンジを扱おうと努力してきたが、だいたいハイエンドしか売れずにミッドレンジ以下の端末の扱いを縮小、あるいは止めてしまったのだとその理由を説明している。

2014年に米国と日本のモバイル業界で起きること

Stephenson氏がいうように、あと1年かそこらでスマートフォン普及率が飽和に近付いたとして、どのような現象が米国で起きるのだろうか? 新規顧客獲得を望めない以上、過度な割引は戦略上あまり意味を持たなくなる。もちろん割引を続けることで「ライバルからの引き抜き」は可能だが、「そうやって業界のライバル同士で無駄に体力を削り続けるのは止めようではないか」とライバルらに訴えるのがメッセージ本来の趣旨だと筆者は考えている。実際、スマートフォン普及とともに急造するデータ通信量に呼応するかのように、トップ2社のデータ通信料金は倍々ペースで上昇している。

AT&Tの場合、GSMが主軸だった時代には10~20ドルで無制限に利用可能だったものが、3G時代には無制限30ドル、現在では3GB/30ドルまたは5GB/50ドルの水準まで上昇している。複数回線でデータ通信プランを共用可能なファミリープランも登場しているが、実質的に今後も値上げは続くと考えられる。おそらくは、こうした施策で利用者増加による損失拡大を補填しているのではと推測する。LTE整備への積極的な設備投資、周波数オークションでの負担など、端末の販売奨励金以外にも負荷は多くあり、回収フェーズへの移行を模索しているのではないかとも考えられる。