――恋愛モノといえば、かなり抱きついているシーンが多いですよね。メインビジュアルからして抱きついていますが
吉浦監督「抱きついてますね(笑)。ただ抱きついているというだけではなく、抱きつき方が次第に変わってくるところにも注目してほしいです。片手だけ、両手、そして……そのあたりで信頼関係を表現したり、逆に敵役にさえ抱きつかないといけない状況を作ることで、より悲劇感を出したり。そのあたりは"サカサマ"の世界観ならではの面白さじゃないかと思います」
――敵役といえば、イザムラの存在感はすごいですよね
吉浦監督「イザムラは、描いていて一番楽しかったキャラです。絶対的な悪役なんだけど、どこか共感しちゃうようなところを狙いました。小物臭がする感じとか(笑)」
――イザムラってすごく偉い人なんですよね、実は
吉浦監督「実は偉い人なんです。目いっぱい偉さを表すために、とにかく彼の周りには治安警察がたくさんいるようにしています」
――作中に出てくる手帳に書かれている文字が英語なのには何か意味がありますか?
吉浦監督「今回、レトロフューチャーで行きたかったのと、世界的にほかの国でも観てもらいたかったので、そのあたりはすべて英語にしました」
――エスペラント語も使われていますね
吉浦監督「冒頭のナレーションとメインテーマで使っています。エスペラントって60年代くらいにいったん衰勢のヤマがあり、そのまま今に至る言語なわけですが、そのくらいの時代のレトロフューチャーが好きな身としては、懐かしい感じがたまらないんですよ。だから、劇中の文字をすべてエスペラントにしようというアイデアもあったぐらいなんですけど、そこはバランスを考えて英語にしました」
――エスペラント語を使ってみたいという気持ちは何となくわかります
吉浦監督「何かカッコいいですよね。哀愁というか、ロマンというか……あまり言うとエスペラント協会の方に怒られそうですが(笑)。人工言語ってやはり憧れますし、それで歌を作るのってあまりないじゃないですか。そういう意味ではとてもうまく作品にマッチしたのではないかと思っています」
――劇場作品となるとどうしても時間という制約がありますが、今回描ききれなかった部分はありますか?
吉浦監督「この作品は地底世界からスタートしていますが、実はあまり地底での生活は描かれていない。もし2時間作品だったら、地底の風俗とか生活様式をしっかりと描いたかもしれないですし、エイジの地上での生活もより詳細に描いたかもしれません。実際、完成した脚本が、そのまま描くと2時間を超えるような作品だったんです。でも物語というものはえてして、盛り込むより切り詰めたほうが良くなるものだと思いますので、結果的に現状のボリュームがベストだと思います」
――続編なども期待したくなりますが……
吉浦監督「ストーリー自体は作れないことはないと思うんですよ。描ききれていないものもたくさんありますし、ただ、まったく未定なので、あるともないとも言えないですけど(笑)」
――以前監督は、実写じゃないと出来ない表現があるので、いつかは実写に挑戦したいとおっしゃっていましたが、『サカサマのパテマ』は逆にアニメでしか表現できない作品じゃないでしょうか?
吉浦監督「『イヴの時間』もそうですよね。あれも実写では難しい。人間そっくりのロボットを人間が演じてもロボットになかなか見えないじゃないですか。『イヴの時間』は、人間そっくりのアンドロイドにドキドキする話なのに、まずはそこに感情移入が出来ない。その時点で実写は難しいんですよ。アニメだから人間そっくりのロボットが本物になる。これは『サカサマのパテマ』も同じ。サカサマ人間が実在するというのがポイントで、実写で合成しても、本当の怖さって感じられないと思います。そこはまさにアニメじゃないと表現できないところですし、ある意味、アニメでしか成り立たない企画を自覚的に出しているのかもしれません。これは逆に、アニメでは出来ないことに対しても自覚的だといえるかもしれません」
――となると、監督の実写作品も近いのでしょうか?
吉浦監督「やりたいですけどね……お話がまったくないわけではないですけど、現時点ではあまりにもノウハウがないので、実写企画に関しては石橋を叩いて行かなければいけないと思っています」
――それでは最後に、公開を楽しみにしているファンの方へのメッセージをお願いします
吉浦監督「メインビジュアルが示すとおり、本当に"サカサマ"というアイデアにすべてを込めた作品で、どなたにでも楽しんでもらえるような王道の作品になっていますので、このビジュアルコンセプトを見て、何かピンとくるものがある方は、ぜひご覧になっていただけるとうれしいです。空が真下に広がる怖さとか、空に浮かび上がる高揚感、そして音響も含めて、映画館で観ていただくのが一番の作品だと思っておりますので、ぜひ劇場まで足をお運びください。よろしくお願いいたします」
――ありがとうございました
劇場アニメ『サカサマのパテマ』は2013年11月9日(土)より公開開始(配給:アスミック・エース)。公開館などの詳細は公式サイトをチェックしてほしい。
(C)Yasuhiro YOSHIURA/Sakasama Film Committee 2013