――続いてはキャスティングについて教えていただけますか?
吉浦監督「キャスティングは、まずメインの2人をオーディションで決めるところから始めました。設定年齢が14歳なので、少年少女というほど無垢ではないけど、すぐに恋愛に転ぶほどの年齢でもない。そんな2人の声に何を求めるかと言えば、初々しさ、すれてなさなんですよ。でも、これがなかなかに難しい。今回、ヒロインの声を藤井ゆきよさんにお願いしたのは、この初々しさが決め手でした。いい意味のナチュラルさ。ただ、すごくパテマに合ってはいたのですが、藤井さんはこれまでメイン役をやったことがなかったので、経験が少ない。映画の主役をまかせるわけですから、そこはちょっと悩みましたね」
――そのあたりはすごく難しいところですね
吉浦監督「そこで、もう一回、個別でオーディションをやらせてもらったんですよ。そこで、あらためてシーンごとに説明しながら読んでもらったところ、かなり読み込んでいただいたんでしょうね、すごく演技も良くなっているんですよ。これならいける! と思って藤井さんにお願いすることにしました。雰囲気重視というと語弊がありますが、とにかくパテマの声に一番ハマったのが藤井さんでした」
――一方、エイジ役は岡本信彦さん
吉浦監督「パテマが藤井さんに決まったので、その相手役は出来れば経験のある方にお願いしたかった。で、オーディションを行ったところ、比較的カッコいい声の方が多かったんですよ。ヒーロー的な感じですね。その中でも声質的に独特だなと思ったのが岡本さんで、念のために彼がこれまでにやった役柄を調べてみたら、意外と幅広い役をこなしている。あ、この人ならエイジ役もいけるんじゃないかと思って、マイクオーディションのときに、ヒロイックな部分を捨てて、少年ぽく読んでくださいってお願いしたら、これもまたすごくハマっていて、これはもう岡本さんしかないなと」
――まずはメインの2人を決めて、そこから脇を固めていった感じですか?
吉浦監督「そうですね。僕はキャスティングをする際に、声を聴いて、区別のつかない方は絶対に配置しないというポリシーがあるので、かなり特徴的なチョイスになっていると思います。ポルダ役も最初はちょっとカッコいい声の人が揃ったので、もうちょっと猿っぽくしてくださいってお願いしたり。基本的にはオーディションで選んでいますが、悪役のイザムラだけは最初から土師孝也さんにお願いしました。とにかく嫌らしいキャラにしたかったので、『ハリーポッター』のスネイプ先生の声の人にお願いしますって(笑)」
――ちなみに、今作では監督は出演なさっていますか?
吉浦監督「どこかにモブでちょっとだけ出ています。ガヤなんでクレジットはしていませんが(笑)。あとお遊び的な要素だと、どこかにテックスも出てくるので探してみてください。一時停止しないとわからないレベルですけど(笑)」
――出演人物自体は意外と少ないですよね
吉浦監督「少ないですね。しかも劇中、メインの2人が出ずっぱりのシーンが多い。そして結局会話劇になっているという(笑)」
――それはもう仕方ないんじゃないですか(笑)
吉浦監督「これでいいかなって。これが僕の味なんですよ、やっぱり(笑)」
――広大な空間での会話劇というのも面白いと思います
吉浦監督「ですよね。ストーリー的にも冒険といいながら、上ったり下ったりがメインで(笑)。まあ、これが僕の味です」
――今回の作品で監督が訴えたかったことはありますか?
吉浦監督「これは『イヴの時間』のときもそうなんですけど、ことさらにテーマは用意していないんですよ」
――そうですよね、というのもおかしいですが、無駄な説教臭さがなく、最後まで冒険的なドキドキハラハラ感が楽しめる作品じゃないかと思います
吉浦監督「説教というのは、物語のドラマを作っていくうえで、絶対に込められてしまうものなんですよ。この作品だって、"同じ場所にいながら、相手の価値観や視点を共有できない2人が、次第に相手の気持ちがわかっていく"云々がテーマだと言えないこともないわけです。でもそれは説教したいわけじゃなくて、物語を面白くしようとしたら自然とそうなっただけなんですよね。だから、そこは特に意識していないですし、意識しないぐらいがちょうどいいんじゃないかと思っています」
――あくまでも面白くするための設定なんですね
吉浦監督「ただ今回、"サカサマ"ということを、単なる面白ギミックにするのではなく、ちゃんと"サカサマ"であることに意味を持たせて、それが感動に結びつく話にしないといけないなと思ったので、男女関係になぞらえて一種の恋愛もののメタファーとして描こうとはしています。ただそれも、多くの人のフックに掛かると思ったからそうしているだけで、テーマかと言われるとちょっと違いますね」