――ちなみに、今回の企画自体はスムーズに通った感じですか?

吉浦監督「最初はやはり『サカサマってどうなの?』って感じで……。皆さん、ピンとこなかったみたいですね。周りのスタッフさえもピンと来てなかったみたいで、Aパートの映像が完成するまでピンと来なかったと激白されたときは、ちょっと衝撃を受けました(笑)」

――制作に入るまでもけっこう大変だったみたいですね

吉浦監督「実際、企画を出した段階ではストーリーは出来ていなかったですから(笑)。何となく地底世界からスタートして、それが地上に落ちてきて、男の子と出会って、それが悪者に狙われる……そんな比較的王道のストーリーがぼんやりとあったぐらい。そこからストーリーを組み始めて、だいたい半年くらいで脚本が完成し、そこからキャラクターデザインや世界観を同時並行で作っていきました。そうやってぼんやりとですが形になったのが2011年の頭くらい。そこからスタッフが集まりだした感じですね」

――ストーリー自体はスムーズに仕上がりましたか?

吉浦監督「ストーリーを作るときよりも、脚本に書いて、説明するときのほうが大変でした。『これはこうなんです』と言っても、なかなかピンとこないので、絵を一緒につけて説明したりもしたんですけど、理解してもらうのにはちょっと時間が必要でした。脚本だけだと、最終的にどんな映像になるのかが想像しづらかったみたいですね」

――最初は2012年公開予定でしたが、2013年秋まで延びたのは?

吉浦監督「映画自体は今年の1月ころには完成していたので、公開自体が延びたという感じです。完成して1年ほど経ってからの公開というのは、なかなかにドキドキするものでね。ある意味、一度クールダウンできている状態なので、今はけっこう冷静に作品を振り返れたりもします。まあ、それも良し悪しで、冷静に見られる分、やたらと客観視できて怖いです(笑)」

――『サカサマのパテマ』は地底世界からスタートするわけですが、地底というとやはり『ペイル・コクーン』が思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?

吉浦監督「そこは意識したわけではないんですけど、やはり被ってますよね。たとえば地球だと思っているところが実は宇宙船の中だった……そんな古典SFによくある世界観が子供の頃から大好きだったので、どうしてもその方向に行ってしまいがちなところはあります。今回地底から始まっているのも、最初から意識していたことではなくて、最初にまずメインビジュアルに近いものを描いたんですけど、この女の子の普段の生活を考えたら、サカサマの地上じゃなくて地底で暮らしているほうが安全なんじゃないか? そんな理屈で思いついた結果なんですよ」

――"サカサマ"がテーマになっていますが、映画の冒頭はあまり"サカサマ"を意識させない作りになっていますよね

吉浦監督「"サカサマ"というのがひとつのコンセプトになっているわけですが、その"サカサマ"をどんでん返しに持ってくるのではなく、セットアップに使いたかった。なので、セオリー的には映画冒頭四分の一で説明することになるのですが、そこでただ"サカサマ"であるというよりも、何かおっと思わせる仕掛けがほしかったので、最初は"サカサマ"というのを隠して、徐々に気づかせるというパターンにしています。地底生活をしながら地上に憧れるというベタなストーリー展開になると、観ている方もいろいろとありがちな展開を想像してしまうじゃないですか。なので、そのあたりにも一工夫を加えています」

――今回の作品は、監督のこれまでの作品に比べて、よりファンタジー寄りではないでしょうか?

吉浦監督「自分ではあまり変えていないつもりですよ。実際、『イヴの時間』も、ロボットの機構とか性能が実現可能かどうかといったことはあまり深く考えていなくて、"実際にロボットがいます"というところから初めて、そこにどんどんとアイデアを加えていくやり方なので。『サカサマのパテマ』も基本的には同じで、理屈はさておき、とにかく"サカサマ"なんだというところから初めています。大事なのは、"サカサマ"であることより、"サカサマ"であることでどれだけ面白い演出ができるかだと思うんですよね。ただ、これまで以上にファンタジーであることは、けっこうほかの人にも言われているので、よりトンデモ設定になったんだなって、自分でも納得するようになりました(笑)」

――ファンタジー寄りではありつつ、設定自体はかなり細かく詰められている印象があります

吉浦監督「とにかく今回は"サカサマ"がコンセプトなので、"サカサマ"に関する描写での矛盾はすべて洗い出して、潰しています」

――そのあたりの矛盾が目に付くと、ファンタジーといえども、世界観自体が台無しになりかねないですよね

吉浦監督「それについて、ひとつだけ助かったなと思うのは、今回も『イヴの時間』と同様に、すべてのシーンをいったん3DCGで作っているんですよ。そのおかげで、上下関係の描写はだいぶ楽になりました。ただ、2つのシーンが複合する、通常の状態と"サカサマ"の状態が一緒になるシーンだと描いているほうも混乱しちゃって……。実は、完全に勘違いして、真逆に描いてしまったカットがあったんですよ。チェックしながらよく気づいたなと思いつつも、そこのシーンは全部描き直しになったので、そこはスタッフに苦労をかけてしまいましたね(笑)」