一方でユーザーは「本来の高い端末価格を負担しなければならない」ため、懐に余裕のない多くのユーザーにとっては「649ドル」といった端末価格と向き合わなければならないことになる。米国において、ユーザーは契約縛りがあっても安価な端末を選択する傾向が高いため、これがどの程度受け入れられるかは判断の難しいところだ。

今後のAppleに何が起こるか、新型iPhoneは?

これら経緯を踏まえ、Appleは今年後半から来年以降にかけて、iPhoneに関するビジネスモデルを大きく転換する必要に迫られる可能性がある。具体的には次がポイントとなる。

  • ハードルの高すぎるコミッションの見直し
  • 販売奨励金に頼らない端末販売
  • 新規市場の開拓

正直なところ、Verizon Wirelessクラスのキャリアで達成できないノルマが存在するならば、そもそもコミッションの設定が誤っているとしか思えない。さらにロシアでの例にあるように、コミッションを理由に顧客に逃げられて市場を失うようでは論外だろう。Verizon Wirelessの契約更新時期にあたる来年以降、このあたりの水準を見直す必要に迫られると思われる。だがAT&Tなど既存キャリアと差別化する形で設定したノルマを見直すことは、これら既存キャリアにとっても納得のいくものではないと思われるため、コミッションに関わる諸条件をすべて見直すタイミングが間もなく到来するのではないかと筆者は予測する。このとき、NTTドコモや中国移動通信といったキャリアでの動きに注目するといいだろう。

販売奨励金の話と新規市場の部分はセットで考えるとわかりやすい。既存のハイエンド市場が飽和しつつあるなか、iPhoneが引き続き販売拡大を狙っているのなら、新規ユーザー開拓の道は避けて通れない。1つは新興国でのチャネル拡大であり、もう1つは先進国であっても低所得層(学生なども含む)やプリペイド利用中心のユーザーだ。この場合、販売奨励金なしでも直接端末を販売できる商材であれば有利になる。ただし米国で500~600ドル、それ以外の国で800~900ドルなどの値札がついていては食指も伸びないだろう。そこで噂の廉価版iPhoneの登場となる。プライスターゲットは300~400ドル程度だとみられるが、一歩間違えればiPad miniとフルサイズiPadの関係にあるように、iPhoneそのものの市場を食ってしまう可能性もある。ゆえに「単なる廉価版」ではない形でのアピールが必要になるかもしれない。

筆者が廉価版iPhoneについて予測するのは、おそらくは「2年契約0円」みたいな販売スタイルはとらない可能性が高いということだ。新規ユーザーを開拓する商材であること、さらに前述のような携帯キャリアにおける販売奨励金負担を減らすものであることの2つが重要だと考える。例えばだが、Cellular版iPadのように月単位のプリペイド契約が可能など、ユーザーを契約で縛らない方向性を模索するのではないかと考える。