いずれにせよ、コミッションの有無に関わらず、潜在的需要のあるユーザーに対してリーチできないのはAppleにとって損失であり、今後はさまざまな手でこれらキャリアへと取り扱い契約締結でアプローチしてくると考えられる。
苦悩する携帯キャリア
コミッションという制度自体、非常にAppleに有利な契約であり、同社が立場的に上であることを意味している。「条件を呑めないなら販売しない」というのもリスク軽減のための手段ではあるが、今後は同社にとってそうもいっていられない事情が到来しつつある。1つは既存の手法でのiPhone販売の鈍化であり、もう1つは携帯キャリア側の疲弊だ。
IHS iSuppliの最新予測によれば、Appleの2013年第1四半期におけるiPhone出荷台数は3740万台と予想を下回っており、このペースでいけば同年後半にiPhoneの次期モデルが登場したとして、2013年全体で1億5000万台程度と、昨年2012年の1億3400万台の水準からほとんど伸びない可能性が高いという。以前に、ハイエンド市場での落ち込みからSamsungのGalaxy S4の販売が伸びないという予測があり、同社株価が急落するという話題が報告された。製品ラインナップが特にハイエンドに偏っているiPhoneではこの現象が顕著だと考えられ、特に現行モデルのマイナーバージョンアップにとどまると予測される次期iPhoneだけでは、IHS iSuppliの予測水準さえ満たせない恐れもある。
さらに深刻なのがキャリア側の疲弊だ。一般に、これはビジネスモデルの問題だが、携帯キャリアでは「1年/2年契約」を条件に端末の割引き販売を行い、月々の利用料金でこの差分を回収していくというモデルが定着している。これはポストペイド契約比率の高い日本や米国で顕著だ。この場合、ユーザーは本来の端末価格を意識せずに製品を購入してサービスを利用していることになる。一方でプリペイド利用が多いアジアや欧州各国では、端末を"素"の状態で購入するケースが多い。そのため、ハイエンドよりもミッドレンジ以下の端末の人気が高くなる傾向があると聞いたことがある。
さて複数年契約による割引き販売の場合、実際の価格との差は「販売奨励金(Subsidy)」という形で携帯キャリアが負担することになる。これは会計処理の問題と思われるが、端末メーカーはユーザーが支払った端末代と差額の販売奨励金分を受け取ることができるため、このビジネスモデルによる不利益を受けることはない。最新iPhoneの16GBモデルであれば、米国での販売価格は200ドル、これに400ドル程度を販売奨励金として上乗せすることで本来の端末価格となる。だが、この400ドルは携帯キャリアにとってそのまま損失として計上されるため、端末が売れれば売れるほど赤字が進むという事態が発生する。それでも現在はまだ販売奨励金を相殺できるだけの黒字を確保できているからいいものの、端末販売台数×400ドルの負担が毎回かかるのはキャリアにとってダメージだ。