――続いてストーリーについてお伺いしたいのですが、今回の舞台を2013年にした理由を教えてください

神山監督「『009』を映画にしようという企画が決まった段階で、原作に描かれていたものをそのままリメイクするか、原作にあるエピソードを現代に置き換えるのか、もしくはまったくオリジナルの新しいエピソードを作るか。いろいろなアイデアがあったわけですが、最後に作られたアニメからも十数年経っているし、石ノ森先生が完結させられないままに終わっている『天使編』や『神々との闘い編』という作品もある。そういう意味で、『009』という作品は、コンテンツそのものの時間がいったん止まってしまっているのではないかと思ったんです。だったら、描かれなかった20年間、その間を想像させつつ、彼らが今の時代まで生きていたらどういう活動をしていただろうかということを、あらためて描き出すことで、時間の止まっていたコンテンツを再び動き出させることができるのではないかと思いました」

――そこで新たなストーリーを描くことにしたわけですね

神山監督「『神々との闘い編』で結末をみないままに石ノ森先生の作品が止まってしまっている中、おそらくその先を描くというのは非常に難しい。平成版のアニメも完全リメイクという形で作られているので、コンテンツ自体はまったく進んでいないわけですよ。もちろん、忠実にリメイクをすることもすごく価値のあることだと思いますが、新しく今の時代に『009』が始まるということを映画単体で語る場合は、やはり原作を一本の映画としてリメイクするのではなく、いったん時間が止まっていたコンテンツを再起動させて、再スタートさせたほうが、映画におけるひとつのコンセプトにもなるんじゃないかと。そこで、時代を現代にして、彼らが今の時代にも生きていて、この20年間いったいどういう活動をしていたのか……そういったことを想像しながら新しい彼らの活躍を描こう、そういう意図で今回のストーリーを書いています」

――脚本を書くとき、石ノ森先生ならどうするかということを想像しながら書きましたか? それとも石ノ森テイストは残しつつも、あくまでも神山ワールドとして描き出したのでしょうか?

神山監督「どちらかと言われれば後者ですが、原作をあらためて紐解くときに考えたのは、なぜ石ノ森先生が、『神々との闘い編』という新たなテーマに挑んだ状態のまま、先が描けなかったのかということですね。まずそれを自分でも理解しようと思って読み直しました。『009』という作品は、『地下帝国"ヨミ"編』というシリーズの中で、事実上一旦の最終回を迎えているわけですよ。だから、そこからさらに連載を再スタートさせたのは、もっと大きなテーマでもっと壮大なエンタテインメントとしてこの作品を作ろうという、石ノ森先生なりの新たな挑戦だったのではないかと。009たちが守ろうとした人類は、そもそも守るに値しない存在であり、それを創造主たる神が滅ぼすと宣言して戦いを挑んでくる……非常に入り口としては大きいけれど、これをどうやって閉じるのか、そこですごく悩まれたのではないかと思います」

――まとめ方が非常に難しいテーマですよね

神山監督「そう。やはり神という存在はあまりにも大きいので、その落としどころは非常に難しくなる。壮大なテーマを描くことと、エンタテインメント性を高めるということは必ずしもイコールじゃないわけですよ。そこをいろいろと考えているうちに、描ききれなかったのではないかなと……そんな想像を巡らせつつ、それならば、石ノ森先生が本当に描こうとしたものではないかもしれないけれど、いったんそのテーマを引き継いで、終わらせることによって、もう一度『009』というコンテンツそのものを再起動させたかった。そんな思いで書いています」