―― カシオミニの発売以降、次々と新製品が出てきます。機能も大きく向上していきますね。このようなスピード感についてはいかがでしょうか。

樫尾氏「やはり、半導体の技術革新が大きいと思います。日本の半導体メーカーにとっても、私たちにとっても、持ちつ持たれつで成長してきたと言えます。

半導体の技術革新が進み、集積率が上がります。そして、劇的に値段が下がっていきます。カシオミニでは、4個のLSIを1個にしようとして6桁でスタートしたのですが、1年もたつと"8桁で1チップ"が当たり前になっていました。それから半年くらいの間隔でLSIがどんどんシュリンク(縮小)し、安くなりましたね。

ディスプレイも大きく進歩しました。カシオミニでは蛍光表示管を使っていますが、のちに液晶になり、より薄くなり、省電力化も進んだのです。その頃私たちは電卓の"多機能化"と同時に"軽薄短小"を追いかけていました。『やるなら徹底的にやろう』という姿勢で、最終的には厚さ0.8mmの電卓を開発しました」

厚さ0.8mmの超薄型カードサイズ電卓「フィルムカード」(SL-800)

―― その後は電卓以外のデジタル製品の開発が進みますね。

樫尾氏「リレー式計算機、電卓ときて、デジタル時計、電子楽器と進んできました。軽薄短小で、今までのアナログ的なものをデジタルにする、という技術を生かして開発してきました。カシオは半導体を使うことに強かったのです。

今は何でもできる時代ですから、逆に、これから何をやったらいいのかが大きなテーマでしょう。今までの延長ではとても難しい。だからこそ、カシオはデジタルに関しては、持っている様々な技術を組み合わせ、新しい製品を開発しなければいけないと思っています」

―― 計算機から始まり、現在も続くカシオの精神とは何でしょうか?

樫尾氏「樫尾俊雄(名誉会長・故人)のDNAでしょう。すばらしい発明家でした。カシオの経営理念は『創造貢献』です。世の中にないものを創造して社会に貢献する。これに徹していました。

ことわざで『必要は発明の母である』というのがありますね。必要があって発明が行われるというものですが、俊雄は『発明は必要の母である』と言いました。つまり発明によって、新しい必要を生み出す、という考え方ですね。

例えば、いま売れているものがあるが、どうして作らないのかと問われても、『それをやっても遅い。新しく売れるものを作る』というのが基本的な考え方でした。また『いま常識でもいずれは非常識、いま非常識なものがいずれ常識』ともよく言っていました。今、常識と思ったらそれ以上は進歩がない。エンジニアにもよくハッパをかけていました。そのDNAを引き継ぎ、今後も頑張っていきたいものです」