――先ほどアニソンにハマったというお話でしたが、それはどのくらいのタイミングですか?
水木「『原始少年リュウ』が成功した段階で、ああ、こんな風に歌えばいいんだなって、ヒーロー物の歌い方を少し掴んだところがあって、また次が来ないかなって思っていました。実は当時、水木一郎の歌を水木一郎として歌うのがイヤだったんですよ。恋愛の歌にせよ何にせよ、自分の歌だと自分の気持ちで歌わなければならないじゃないですか。でもヒーローの歌なら、ヒーローにあわせれば良い。こんな楽しいことはないですよ」
――ヒーローになりきって歌うのが楽しかったわけですね
水木「今風に言えば、コスプレをしたい気持ちと同じなのかもしれません。ヒーローになりきるのが楽しくて、早く次の曲が来ないかなと思っていたら、『超人バロム・1』が来た。で、歌詞を見たら『ブロロロロー』と『ズババババーン』。何じゃこれはって(笑)。当時はそう思ったんですけど、これが雄叫び系では最初の曲で、後にいろいろな雄叫びをさせていただくことになるのも、元はこの歌があったからこそですね」
――アニソンの歌い方というものは、かなり最初の頃から掴めていた感じでしょうか?
水木「アニソンを歌っている先輩というのがいなかったので、どうしていいのかわからないというのはありました。あと、当時の歌謡曲では、森進一さんとか青江三奈さんとか、声がハスキーで味のある人がヒットしていたので、僕みたいなきれいな声は面白みがなくて、誰も鼻にも引っ掛けてくれなかったんですよ」
――ちょっとクセのある声のほうが人気だったわけですね?
水木「そうですね。だから、海に行って『バカヤロー』って千回ぐらい叫べば、声がガラガラになるだろうとか思っていたんですけど、今思うとやらなくてよかった(笑)。この声が逆にアニソンには良かったんですよ」
――子どもにはやはりきれいな声のほうがいいですよね
水木「そう。で、あと一番言われたのが発音。子どもたちにはっきりと歌詞に込められたメッセージを伝えなければならないので、とにかく発音は大事にしましたね。あと、アニソン歌手はレコーディングスタジオで歌っていればいいんじゃない。テレビの前にいる子どもたちの目の前で歌っているんだ、そんな気持ちでいつもレコーディングをしていました」
――目の前には子どもたちがいるというイメージで歌っていたわけですね
水木「僕はいつもそんなイメージで歌っていましたし、それが伝わればいいなと思っていました。今になってみると、それはちゃんと伝わっていたんだなと思います」
――そういう意味では、数多くの歌を歌う中で、さまざまな試行錯誤もあったわけですか?
水木「アニソンは新しいジャンルでしたからね。最初の人間として、どうやって歌えばいいのか、どうやったらこのジャンルが世の中に認めてもらえるのか、やはりそんなことをずっと考えていました。僕はほかのジャンルから入ってきた人間だからわかるんですよ。ほかのジャンルだと、たとえ売れていなくても、歌を歌っているというだけで騒がれるし、ちやほやもされる。でも、アニメの場合は、どんなにうまく歌っても、レコードがたくさん売れても、皆さんがワーッて騒いでくれることはなかったですから」
――今でこそという感じでしょうね
水木「だから、子どもは大切だ、大切だといいながら、こんなに良い歌をバカにするのはおかしいじゃないか、そんな反発があったのも確かです。漫画なんか見るな、本を読めとか、そんな歌を聴くなとか。それは間違っているんじゃないか? そんな反発もずっとありました」
――そんな思いの中、最終的に水木さんがアニソンを掴めたと思ったのはいつ頃ですか?
水木「レコーディングが怖くなくなってきたのは『仮面ライダーX』ぐらいかな。その頃になってやっと、自分の声でどのように歌えば良いのかが、自分なりにわかってきた感じです。正直に言いますと、『マジンガーZ』については、今でもなるべくテレビで放送していたときと同じように歌っているのですが、まだその頃は掴みきれていなかったかもしれませんね、今思うと。でも、それはそれで新鮮でいいなと思っています」
――40年も歌っていると、やはり歌い方も変わってくるのではないですか?
水木「僕は歌い方を変えるのがキライなんですよ。アレンジを加える方もいらっしゃいますが、そんなのはダメですね。アニソンはちゃんと昔のままで歌わないとダメなんですよ。なんて言っている自分が、最近のテレビ番組やライブだと『変えてんじゃん』って言われることもありますよ(笑)。自然と力が出ちゃうんですね、歌唱に……。でもメロディーは壊してないですよ」
――昔のままに歌うのが基本ということですね
水木「雄叫びがちょっと伸びちゃったり、激しくなっちゃたりすることはありますけどね(笑)」
――ちょっと勢いがついただけですよね
水木「そうです、そうです。そのほうが聴いている人たちも楽しいでしょ(笑)」