及川 : 私の場合は実家が近くにあり、何かあったときに子供を見てくれる人がいるので恵まれています。ただやはり保育園に子供を入れるときは必死でした。0歳児で民間の認証保育室に入れるときは倍率が3倍を超えていましたし、1歳になり公立の保育園に転園させるときは第一希望園の倍率が60倍。フルタイムで働いていても落ちてしまいました。そこまでとは思っていなかったので、現実を目の当たりにし驚きましたね。たとえ勤務先に3歳までの育児休暇制度があったとしても、保育園の競争率は高い。入園申請時に復職していた方が保育園は入りやすいですから、結局お母さんたちは復職を急いでしまうわけです。その辺はまだ行政と企業とのバランスが取れてないように思います。

また、会社にいて思うのは女性の考え方も様々ということ。ある日、女性社員に「そこまで働かないで」と言われたことがありました。「自分が子どもを産んだときに同じレベルを要求される。この会社では子育てしながら働くのは難しいと他の女性社員も思ってしまう」というのです。目からうろこでした。自分のやっていることが、実は社会で女性が活躍する助けになっていないのではないか……と考えさせられる一言でした。

林市長 : 女性が働き続けるにはそういう問題を解決していかなければならないでしょう。例えば、横浜市ではワーク・ライフ・バランスに積極的に取り組んでいる会社を「よこはまグッドバランス賞」として表彰しています。そうした会社で働いている人に聞くと、有給休暇の取得率も高いし、お母さんが少しでも具合が悪いと「休んだら」と周りから声がかかるそうです。でも「育休とるっていうけどこの仕事どうするんだよ」という雰囲気があるのも現実。こういう意識改革をしていかなければならないですね。

幸せな仕事って何だろう、と考えることがあります。いっとき、ものすごく「実力主義」「成果主義」といわれた時代があり六本木ヒルズ族が成功の象徴みたいになりました。そういう、競争して勝ち抜くことこそがすばらしいというわけではなく、自分に合った仕事をこつこつ着実に続けて、それを生活の支えにしていくこともすばらしいことです。横浜市では、調理師や表具師、陶磁器絵付師の方など優れた技能をお持ちの方を「横浜マイスター」として選んでいるのですが、そういう方は一日一日、経験と熟練によって技能を磨いていらっしゃいます。それは大変価値があることだし素晴らしいことです。でもいまの時代、何かと「すごく変化しなくちゃ」とか要求されませんか? 変わらないテンポもあり、そういうところ全部を内包というか包容していく社会にしなくてはいけないわけですね。それは働き方についても通じること。多様性をどういう風にみんなで考えていくかはこれからの課題だと思います。

おもてなしの心を

林市長 : もう少し社会全体が生き方を変えなければならない。この低成長の時代、このなかでお客様を捉え続けるのは、本質的なところでのやさしい言葉だと思うんです。横浜市ではそれを「おもてなしの行政サービス」と言っています。例えば、生活保護の相談を担当している職員さんなら「やってあげたいけど、ここまでしかできない決まりごとがあって、自分の力ではどうにもならない」と落ち込んでしまうこともある。でもその思いを市長とか副市長とか区長とか、みんなで共有できれば、ちょっと違うと思いませんか。その決まりごとはおかしいから、国に変更を働きかけてみよう、とか、生活保護までいかなくても支える仕組みを考えてみようとか。相手に寄り添い、何とかしていこうとする力強い優しさ、それが今の社会に足りないと思う。経済成長を促し、そしてやさしい社会にしていこうとしたときその基本にあるのは、女性の活躍を支援し、子育てに優しい社会をつくっていくことです。男女共同参画をお題目に終わらせず、子育て支援を優しく、力強く進め、次の時代を担う子どもたちを育てていきたいですね。