――女性が職場に進出することで経済成長を後押しする時代が来たということですね。
林市長 : 経済成長を促すには、女性の力が必要です。でもそれ以上に大切なのは、女性が社会に出てくることは、もっと優しい社会づくりのために必要なのだということです。あまりにもいま社会がギスギスしていますよね。確かに会社経営は大変だし、この環境下で持続成長は本当に難しいことです。でもそこにいるのは人。どんな大企業であっても会社を支えているのは社員で、その1人1人は感情的に生きている人間なのです。学校や社会でさまざまな知識や人間対応力を身につけたかもしれない。でもやっぱり人は合理性やロジックだけで生きてはいけないものです。自分たちがそうしたいと思えば、本当はギスギスしない環境を作れるはずなんですよ。
例えば、行政でいえば一緒に働く人を1人の人間として捉え、その立ち位置から自分たちの行政サービスを考える。そうしたらギスギスしないはず。本当は「もっと楽しく仕事をしましょう」と言い合えたはずなのに、そういうことを置き去りにしてきてしまったということです。
女性の方が生活の中で小さな喜びを見出すことに慣れています。だから女性がもっと社会に入って、仕事の中で、職場で喜びを見出す文化をつくっていった方がいい。男性は戦後の日本の復興からずっと必死に働いてきたわけですから、その遺伝子みたいなのをずっと抱えていると思うのです「この会社は戦後こうやって立ちあがったんだ」「先人はこうやってきたんですよ」という具合に。だから男性は家庭よりも会社の繁栄のために頑張ろうと必死になるわけです。戦後の復興期とは違うものが求められている今、これにストップをかける必要があるのです。今、育児に積極的な男性「イクメン」がブームですが、「イクメン」が増えるのはいいこと。日常にめざめていく男性が増えていくということですから。
社会とつながっている母がかっこよかった
――及川さんは林市長と同じ都立青山高校の出身。働く女性のパイオニアとして林市長には憧れがあったそうですね。
及川 : まだ女性が一般職でしか働いていない時代、女性の就労を支援する制度が整ってない時代に、子育てをしながらも「働きたい」という強い意思で道を切り拓き、夢を実現されてきた林市長のことを知り尊敬の念を抱いていました。
林市長 : 自分の後輩がまだ若いのに社長として頑張っている。すばらしいことです。お子さんもまだ小さいそうですが社長職と育児の両立は大変ではないですか。
及川 : 子育ては確かに大変ですが反面楽しいものでもあります。どんなに仕事で悩んでいても家に帰ったら子どものご飯を作らなくてはならないわけです。それがいい"リセット"になる。ただ仕事の悩みが多いときなんかは子どもとご飯を食べていても上の空だったりするみたいで、子どもはそういうの察知するんですよね。「『うん』『はい』以外で答えてほしい」と言われることがあって。そんなときは苦しいですね。
母も公務員として働いていて、私はカギっ子でした。もしかしたら小さいころは母といつも一緒にいられなくて「さみしい」と感じていたのかもしれませんが、大きくなるにつれて社会とつながっている母がかっこよくって。市長や母親のように前を歩いている先輩たちがつくってきた道を守らなくてはならない、それが自分の使命だと感じています。その道をたどっていくことで、今後より女性が働きやすい環境へと社会が変わるのではないかと考えています。