もしも、未開の孤島に多数の男たちとごく少数の女が暮らしていたら……。この設定と似た環境がこの世にはある。それがオートレース選手養成所だ。外出禁止や通信機器の使用禁止など未開の孤島ともいえる環境下で男子18人と女子が2人が暮らしている。どんな生活をしているのか。浮いた話はないのか。もろもろを見てきた。

JKAオートレース選手養成所。建物のつくりは近代的なのだが……

オートレースを知ったかぶり

オートレースは競馬、競輪、ボートレースに並ぶ公営競技のひとつ。大雑把にいえば、1周500mの楕円形走路を8台のバイクが同時に走り、1着を争うレースだ。直線部での最高時速は約150km、コーナーでは時速約90km、勝負どころでは近接距離で競り合い、落車することも少なくない。

オートレーサーの平均年収は1300万円。年間休日はサラリーマンよりも圧倒的に多い。この羨ましい人生を手にするには、所定の試験に合格後、茨城県下妻市の筑波サーキット内にあるJKAオートレース選手養成所で、9カ月におよぶ訓練を受けなければならない。

養成所生活はきついらしい

現在、養成所で訓練中の第31期候補生は全20人。その中に2人、異色の存在がいる。佐藤摩弥(さとうまや)、坂井宏朱(さかいひろみ)だ。

"サトマヤ"こと佐藤摩弥は元モトクロスライダー。美少女ライダーとして注目され、テレビ出演したことも。坂井は元OLという異色の経歴の持ち主だ。彼女たちが正式にレーサーになれば、約半世紀ぶりに"女性レーサー復活"となるのだが、曲者は養成所の生活。多くの現役選手が口をそろえて「あそこには戻りたくない」などと指摘するほどつらい生活らしい。なお、彼女たちがオートレーサーを志したきっかけなどはこちらを参照してほしい。

さて、養成所の生活であるが、手紙以外の通信手段は許されず、外出は原則禁止。テレビも自由に見られない。見られるといっても、オートレース中継だけ。お風呂の時間は約10分、食事は5分。自由の少ない空間で9カ月を過ごすことになるのだ。

もちろんこれには理由がある。公正なレース運営を行うため、レース開催期間中、選手は外出が許されず、通信機器の使用は一切禁止となっている。新人ともなれば、雑用も多く食事の時間がなかなかとれない。まさに、選手生活・新人生活を想定してのメニューなのだ。

養成所の1日
午前の日課 午後の日課
起床 6:15 訓練 13:00~17:00
点呼 6:30 夕食 18:00
教練・体操 6:35~7:30 入浴 18:30
朝食 8:00 自習 19:00~20:00
掃除 8:30~8:45 掃除 20:30~20:45
訓練 9:00~11:50 点呼 21:00
昼食 12:00 消灯 22:00

でも美女がいれば……

とはいえ、美女がいれば厳しい訓練もなんのその。養成所生活が楽しくて仕方がないという候補生もいるのではないか。軽い気持ちで養成所に到着した1月26日午後3時。浮いた話を求めて、早速、男子候補生たちに、美少女レーサー、佐藤候補生について、どう思うか聞いてみることにした。

すると「別に何をどうとも思いません」「同じライバルですから」と、いきなり素っ気ない答えが4つ、5つと続いていく……。呆気にとられてしまうほど、ドライな返答。「君たち、どう考えてもおかしいだろ!」というのが記者の本音だ。だって、これですよ!

佐藤摩弥候補生。これで化粧水オンリー!!

否、これは記者の聞き方がおかしかったのだろうと思い直し、「佐藤候補生ってかわいいよね?」と誘導することにした。そして、別の候補生に当たってみると「かわいいですよね」とようやく素直な気持ちを聞き出せた。しかし、続く言葉は「ところで、あなたどこの媒体ですか?」(頭のいい候補生)。

あまりにくだらない質問と捉えられたのか、警戒されたのか、結局は「ライバルですから」云々と月並みな返答に戻ってしまった。

周りに指導教官もいることだし、浮ついた発言はしにくい空気が流れていたのも事実。まず、訓練中に候補生同士で談笑することはありえない。

皆、かなり真剣にタイヤ作りに専念し、準備を終えたらすぐに走行、整備所に戻って再度整備、そして走行訓練の繰り返しだ。「佐藤候補生ってかわいいよね?」なんて取材して、浮ついた記事を書こうという考えは、この時点ですでに崩れ去ってしまったのである。……つづきを読む

走行訓練を終えて整備所に向かう佐藤候補生

すべり防止のためにタイヤウォーマーを装着

再び走行訓練に向かう佐藤候補生

一台ずつ発進し走路を周回する