考察

ということでだいぶ遅くなったが、やっとCaymanシリーズのレビューをお届けすることができた。まずカード単体の性能についてであるが、確かにRadeon HD 5800シリーズに比べると若干の性能アップを図ることには成功している。ただしトップエンドの性能はGeForce GTX 580にはまだ遠く、まもなく登場するという噂のGeForce GTX 560と比較してもちょっと厳しい感じかもしれない。ただ性能/消費電力のバランスという観点では、特にRadeon HD 6850は割りと良い気がする。Radeon HD 6970も頑張っているが、ちょっとバランスを崩した感は否めない。価格面でも、Radeon HD 6950は3万円程度で比較的求めやすい。Radeon HD 6970だと4万円程度になり、もう1万円足せばGeForce GTX 580が手に入るから、その意味でも微妙である。

気になるのはGeForce GTX 580対抗を目指すRadeon HD 6990の構成である。今回のテスト結果を見る限り、性能という観点でも消費電力という観点でも、Radeon HD 6950よりもう少しレベルを落とした構成でないと難しいだろう。多分ALUは20SIMD/1280ALUを750MHz前後、メモリは4.8Gbps/256bit程度まで落とせば消費電力的には300Wの枠内に収まりそうだし、ベンチマークの結果もほぼGeForce GTX 580に拮抗しうるものになると思われる。

問題はCrossFireを構成するにあたってのオーバーヘッドであり、ここでAMDのPhenom IIを使う限り性能が改善できそうにない、というAMDプラットフォームそのものの問題である。というかベンチマークを始めた時には、まさかここでIntel vs AMDのCPUの比較をすることになるとは思わなかった(というか、そんなつもりはなかった)のだが、あまりにPhenom II X6 1100Tの性能が振るわないために、結果的にCore i7-2600Kとの比較をすることになってしまった形だが、とにかくCore i7-2600Kには及ばないということが数字ではっきり示された形だ。

もっと正確に言えば、GeForce GTX 580なり、Radeon HD 6950/6970のCrossFire(や、おそらくこの後登場するRadeon HD 6990)の性能をフルに生かすには、Core i7-2600Kでもやや性能不足という事が今回のテストで示されたと言える。3DゲームではCPUとGPUの性能がバランスを保っていないとうまく動作しないわけだが、GPUの急速な性能向上にCPU側が追いついていない状況になりつつある、と言い換えても良いだろう。Core i7-2600Kでも不足な訳で、Phenom II X6 1100Tではさらに不足感が激しい、ということだ。その意味では今後登場するBulldozerベースのZacateコアに多少なりとも期待をしたいところではある。

とりあえずこれからハイエンド3Dを楽しむプラットフォームを選択したい、という方にはCore i7-2600Kの方が適切だろうというのが今回での結果であるが、では今Phenom IIを使っているユーザーは窓から投げ捨てるべきか、というとそうでもなかったりする。以前この記事でもちょっと触れた話だが、Phenom IIの場合ボトルネックはCPUコアそのものではなく、むしろNorthbridge機能にある。なので、ここにあるようにNorthbridgeを2.4GHzまで引き上げると、意外に性能が改善する。例えばDirt 2の場合、2GHz駆動のままだと65fps前後にとどまるのが、2.4GHzにしてみると1024×768pixelの場合で91fpsまで平均フレームレートが引きあがった(Phenom II X6 1100T + Radeon HD 5870の場合)。Core i7-2600Kにはまだ及ばないとはいえ、ここまで上がれば大幅な改善といえる。すでにPhenom IIをお持ちの読者にはぜひお試しいただきたいところだ。

ちなみに前回の記事と今回の記事をまとめた結果として、筆者の手持ちのX58の環境とかAMD 890FXの環境は、もうハイエンド製品の比較には適さないことが明らかになってしまったわけで、ベンチ機材からはリタイヤさせざるを得ない。まぁCore i7-2600K + P67の構成はそろえても5万円弱だからそれはいいのだが、問題はこのX58やらAMD 890FXやらをどうするか、さっぱり用途が思いつかない。技術革新は素晴らしいのだが、時として勿体無い事に繋がる、という実例の様な状況に見事に陥ったのがちょっと悲しい昨今である。