――まさに大原さんの代表作ともいえる作品ですが、侑子という役を作るうえで苦労した点はありますか?
大原「100%、苦労の塊ですね(笑)。アプローチの仕方がここまでわからなくて、迷ったキャラクターというのは侑子さんが初めてでした。もちろんビジュアル的なものからイメージを得ることはできますが、それ以外の部分、例えば"この人はいくつなんだろう"とか、"どういった経緯で今ここにいるんだろう"とか、そういったデータについては、何ひとつ確定したものがない前提でスタートしたんです」
――内面的な部分に関してはほとんど情報がなかったわけですね
大原「『ツバサ・クロニクル』では、"次元の魔女"という立ち位置がちゃんと確立されているんですけど、『×××HOLiC』の世界観では、あえて侑子さんは"魔女"ということを言っていないんですよ。だから、はたして彼女は何者なのか? 人間なのかどうかも明らかにされていない。しかも、TVシリーズの第一話では、『壱原侑子よ。偽名だけどね』みたいな(笑)」
――名前すらも偽名なんですよね
大原「そんなところから始まっているので、最初は本当に手探り状態でした。でも、侑子さんは本当にいろいろな顔を持っているじゃないですか。すごくミステリアスな顔もあれば、子どもみたいに無邪気なところもある。だから、"この人はこういう人だ"っていう枠を作らないことこそが侑子さんらしさに繋がるのではないかと、そういう風に思ってからはすごく楽になって、ノビノビと侑子さんの表情にあわせて演じることができるようになりました」
――キャラクターを固定しないことで、逆にキャラクターが出来上がるというのも面白いところですね
大原「自由に演じれば、それが侑子さんに繋がるんだって思って演じていたところ、周りの方からは、『侑子さんはさやかそっくりだね』って言われるようになりまして(笑)。それが褒め言葉なのかどうかはわからないのですが、いい意味でリンクできたと信じています」
――あるときは大人の女だったり、あるときはすごく子どもっぽかったりと、表情が豊かなところが侑子の魅力になっていると思いますが、そのあたりはやはり演じがいもありつつ、とても難しい部分だったのではないでしょうか?
大原「何か言葉を言っても、実はその裏に別の何かが合わせ鏡のように存在しているような気がする。本当に底が見えない面白さがあって、一面では捉えきれないキャラクターなんですよ。たぶん、侑子さんをやらせていただいたことで、私の引き出しは確実に増えたと思います。キャラクターにとらわれ過ぎていた感が、それまでの自分にはあったんですよ。この人はこういうことを言わないとか、しないとか。でも、それが意外と演技の幅を狭めていたんだということを、侑子さんをやらせていただいて気づきました」
――実際に人間は一面だけではないですからね
大原「そうなんですよね。侑子さんの場合は確実に人間ではないと思うんですけど(笑)、誰よりも人間臭く描かれているのがまた魅力なんだって思いました」
――侑子という役が掴めたと思ったのはだいたいどれくらい経ってからですか?
大原「第1シリーズが始まって、2、3話ぐらいの内には、自分の中でストンと決着がついていた感じですね。しかも侑子さんというキャラクターは、わたわたする四月一日(わたぬき)がダーと突っ込んでくれたり、モコナが一緒に騒いでくれたりして成立するというところもありましたので、本当にみんなに作ってもらった役だという感じもあります」
――基本的に侑子の役どころは、いかに四月一日をいじるかといった感じですよね
大原「いかに四月一日をバタバタと騒がせるかに生きがいを感じているところがありますね。実際のアフレコ現場でも、(四月一日役の)福山潤くんがひたすら一人で汗をかいていて、それを大変そうだなって他人事みたいに見ながら、みんなで笑っているのが面白かったです(笑)」
――『×××HOLiC』に限らず、大原さんと福山さんはそういった関係の役どころが多いような気がします
大原「そうなんですよ。『×××HOLiC』をやる前はあまり縁がなかった役者さんなんですけど、『×××HOLiC』を始めてから一気に絆が強まりましたね。こういった上下関係の役がアニメでも、ドラマCDでもやたらに増えちゃって(笑)。なので、『私たちはこういう運命なんだね』みたいなことを話したりしています。でも、本当に不思議ですよね。ひとつ関係性ができると、それがなぜか繋がっていくんですよ」