電子出版の現状を整理
「iPad」や「Kindle」などの登場によって、にわかに脚光を浴びている電子出版。その台頭は、現在の出版にどのような変化をもたらすのか? 『電子出版の構図――実態のない書物の行方』(印刷学会出版部)の著者で、日本出版学会副会長の植村八潮氏が「電子書籍の歴史的経緯と現状」と題し、電子出版の現状を整理した。
まず、電子書籍の盛り上がりを受けて「電子書籍元年」と呼ばれている現状を分析した植村氏。電子書籍の歴史を振り返り、「新しい電子書籍用端末が登場するたびに盛り上がりを見せて、そのたびに"電子書籍元年"が繰り返されてきたという経緯もあるんですよね」と指摘した。「しかし、今回の電子書籍元年では、やっと技術と人々の関心が呼応するようになったのではないかと思います」。
次に、植村氏は、出版の電子化がもたらす変化を根本から整理しつつ解説した。「出版の電子化といっても、広義には、出版コンテンツのインフラの電子化と、出版コンテンツの電子化があります」。出版コンテンツのインフラの電子化には、出版物の製作にDTPが利用されるようになったことや、販売方法にオンライン書店などのネット販売が登場したことなどが該当する。一方、出版コンテンツの電子化にあたるのは、本の媒体にCD-ROMやネットといった選択肢ができたこと、表示装置として電子書籍端末が登場したことなど。「現在注目を浴びているのは、出版コンテンツの電子化のほうです。これらによって変化するのは、印刷製本や流通、販売の部分です」。コンテンツの電子化により、印刷製本の工程は不要となり、商品はCD-ROMなどのハードウェアにパッケージングした形か、ソフトウェアの形で提供される。ソフトウェアとして提供されるコンテンツは、取次による各書店への流通が不要となり、ネット上で流通することになる。また、販売も、オンライン書店等によるネット販売となる。
また、本のコンテンツがネット上で流通するようになることで、出版ビジネスに与えうる影響についても考察した。「従来は、読者がお金を支払って本を購入することで、本の生成が成り立っていました」。しかし、この構造は、デジタルアーカイブやポータルサイトなどによるサービスが普及すると、大きく変化する可能性がある。「サービス間で価格競争が起こると、無料のサービスも登場してくるでしょう。そうすると、読者はお金を払って本を買わなくなる」と述べ、出版ビジネスのモデルが大きく変化する可能性を示唆した。