9月23日から30日まで、東京・新宿の早稲田大学にて、国際ペンと日本ペンクラブ主催の文学フォーラム『国際ペン東京大会2010 環境と文学「いま、何を書くか」』が開催された。同フォーラム内では、9月29日、文学をとりまく最大の環境変化として、デジタル・ネットワーク化と電子書籍を考えるシンポジウム「本の未来」も実施。グーグルブックサーチ訴訟や電子書籍の現状などについての講演や、立場の異なる様々なパネリストによる討論などが行われた。

「国際ペン東京大会2010」で行われた、電子書籍に関するシンポジウム「本の未来」

グーグルブックサーチ訴訟をひもとく

2009年に和解した、グーグルブックサーチをめぐる米国の集団訴訟。その和解契約は、米国だけでなく日本や世界の出版業界も巻き込んで、大きな問題となった。米ニューヨーク州の弁護士で、グーグルブックサーチ訴訟の日本ペンクラブ代理人を務めている斎藤康弘氏が、「グーグル的世界のもたらしたもの」と題し、グーグルブックサーチ訴訟をめぐる問題を解説した。

グーグルブックサーチ訴訟の和解契約をめぐる問題を解説

「日本でのグーグルブックサーチ訴訟和解案の問題は、2009年2月、一部の新聞に掲載されたグーグルの広告から始まりました」(斎藤氏)。その広告内容は、書籍の著者・出版社、あるいはそれ以外の著作権保有者に対し、その権利に米国におけるグーグルブックサーチ訴訟の和解契約が影響することがある旨を通知するもの。「つまり、グーグルが、米国訴訟で合意した著作権ライセンス契約の内容を、世界中の著作権者に押し付けようとする内容だったわけです」。

和解契約は100ページ以上ある複雑なビジネス契約だが、根本的な2つの特色があるという。その特色とは、「将来に向けて、印税等の条件を含めたライセンス契約を、著作権者に押しつけた内容である」ことと、「対象となる著作権者は、基本的には"オプト・アウト(離脱)"しなければ、契約に拘束される」こと。当初の和解では、日本の書籍を含む世界中の本が対象となっていたという。「日本ペンクラブを含む海外からの異議申し立ての結果、修正され、基本的に米国著作権局に登録した書籍と、英国、カナダ、オーストラリアの英語圏において出版された本のみに限定されることになりました」。ただし、「日本の作家の著作でも、過去に米国著作権局に登録した本は、いまだに対象となっています」。

また、この契約には、法的問題もはらんでいるという。「多くの問題があるのですが、根本的なものは2つ」と斎藤氏。「1つは、グーグルの前代未聞の規模の著作権違反行為を罰する代わりに、ライセンス契約を与えているということ。そして2つ目は、グーグルに電子書籍関連市場での独占的な力を与えるもので、独占禁止法に反するということ」。今現在、この和解案は裁判所の承認・否認の判断を待っている状況だという。「承認されれば、グーグルは世界最大の電子図書館、および世界最大の電子書籍ビジネスの立場に一気に躍り出ることもあり得ます」。

米ニューヨークの弁護士でグーグルブック検索訴訟の日本ペンクラブ代理人・斎藤康弘氏

「今回の大量スキャンに見られるように、とにかくデータを採ってしまって、それから法的な問題について処理するという手法は、社会的にも法的にも、容認されるべきものではありません」と弁護士としての見解を述べた齊藤氏。一方で、このような問題が生じた背景について、「グーグルのような検索エンジン企業においては、情報の網羅性、情報量の優位性が重要です。ビジネスの根本的な性質からして、起きるべきして起きたことなのでは」と分析した。また、「裁判手続きの間も、グーグルのビジネスは先へ進められています。結果として、裁判所の判断の意義が薄れてしまうこともあり得る。それに、グーグルは読み取った本のデータを、様々な分析・解析を行った上で営利利用しています。これを単なる複写機のコピーと同列に論じるのはナンセンスです」とも。グーグルのビジネスのスピードに、周りの対応や判例が追い付いていないことを指摘し、結果的に、本の電子化データについてグーグルの独占的な状況が生まれる可能性を示唆した。

また、本の情報の流通に独占が起きた場合について、「社会的リスクは大きい。たとえば、多数の本が1つの拠点を通過して流通するとなると、構造的に、検閲や内容のコントロールが容易になります」と解説。「必然的に、表現の自由への影響の懸念が生じます。情報の多様性への悪影響も含め、長期的な影響について、慎重な検討が必要なのでは」と語った。