ビューンならではのオリジナリティ
雑誌や新聞と書くと、紙媒体をそのままデジタル化しただけのように思えてしまうが、実はビューンなりの工夫もしている。蓮実氏は「まだまだ何がベストかは分からないが」と前置きしながら、「意外とオリジナル」と各メディアの取り組みを評価する。
「まず、3つ入っている新聞は、各紙専用のレイアウトをわざわざ作っています。毎日新聞は横書き、西日本新聞は縦書きですが画面のサイズに合わせてあるんですね。また、FRIDAYは、誌面だとモノクロ写真のところが、ビューン版は全てがカラーです。記事を増やさない代わりに、カラー化することで"ここでしか見られない"を実現しています。もちろん、収入に対する手間のかけかたがこれでいいのかというところはありますが、貢献度が最大になれば、その分お金をお戻しできます。こちらからは、最低限のお願いはしていますが、それ以上は各社が創意工夫をぶつけているのです」
「女性セブン」のように、次号の発売日までに記事を徐々に追加している媒体もある。これは「『女性セブン』が試していること。こちらはバックナンバーも揃っていて、主要記事は全部読むことができる」という。蓮実氏によると「それが正しいのかどうか、各自が模索している」段階だ。
ただ、レイアウトを大幅に変え、デバイスに合わせて情報を最適化した新聞社に対し、雑誌はまだ紙をそのままデジタルに移植したような印象が強い。実際に試してみたところ、一部の雑誌は画面の大きなiPadでも拡大・縮小やスクロールが必要で、どうしても文章を目で追うのに手間がかかってしまった。蓮実氏は「最初だからやむをえないところがある」としながらも、「これは本来の電子書籍ではない」といい、次のように続ける。
「今はまだ書籍を電子にしただけ。本当の電子書籍はこの先にあるはずですが、今の状態を一回経て、読者がどう反応するのかを見ていく必要があります。読みやすさの最適化はもちろん、更新を頻繁にしたり、動画コンテンツを入れたりといったことも、Webサイトではできていますから、それを取り込むこともできます。ただ、それでもまだ本当の電子書籍とは呼べないのではないでしょうか。本当は、さらに"その先"が必要なのだと思います」
こうしたチャレンジができるのは、ビューンがレベニューシェアを採用し、その上で媒体同士が競争できるからでもある。レベニューシェアの仕組みは「詳細は企業秘密だが、貢献度に応じて支払う」ものだという。ページビューやユニークユーザーなどに加え、更新頻度や媒体特性に応じた基準を作り、参加媒体には全てオープンにしているそうだ。
Webとは違うアプリならではの苦労
PCやケータイで一般的になったWeb媒体とは違い、市場が形成されたばかりの"アプリ"だからこそ、苦労も少なくない。蓮実氏は「ストアから大元のアプリをダウンロードするのがひと手間。フィードやブックマークよりはるかにハードルが高い」と話す。ネット接続に必須のブラウザとは異なり、アプリはわざわざそれを利用するために立ち上げなければならず、「ブックマークに比べ、異常なほど飽きられやすい」のが特徴だ。さらに、30日単位で課金している事情もあり、ユーザーに継続して利用させるのが非常に難しい。一般的なケータイの公式サイトのような自動更新の月額課金が利用できないため、「ビジネスのやり方が全然違う」のだ。