――そもそも、阿部さんは最初からプロデューサー志向だったのでしょうか。
阿部「いいえ。代理店時代から元々ディレクターに憧れていましたが、自分よりすごい才能を持った人なんて、それこそ大勢いるわけですよ。その中で、自分は技術を扱う職業は向いていないことを悟ったわけです。その代わり、企画を立てたり、スタッフをつれて来たり、資金を集めたりする、"設計"が自分には向いているんじゃないかと思いました。これは僕に限らず、またどんなジャンルの職業でも、自分の向き不向きは充分に理解した方がいいと思うんですよ。『自分を知る』ということは、ものすごく大事なことだと思いますね」
――夢を思い描く前に"自分"を知ることが必要であると。
阿部「身も蓋もない言い方だけど、努力しても駄目なものは駄目なんですよ。例えば、身長も低くてやせ細った男の子がいくら『横綱になりたい!!』って思っても、それはどうしても叶わない話じゃないですか。それはその子の夢を全否定するわけではなく、だったら相撲の解説者になろうとか、相撲雑誌のライターになろうとか、道はいくらでも広がりますよね。つまり『自分を知る』ということはそういうことなんです。で、客観的に自分を知るためにはどうすればいいのかというと、やっぱり出来る限りいろいろなモノを見て、人に話を聞いて、知識や経験を貯え、常に自分自身に問い続けていくしかないんですよ」
――ところで、阿部さんから見て、今の日本映画界について思うところは?
阿部「ここ数年、日本映画はテレビ局の本格的な参入によって活性化したかのように見えますけど、実はより保守化が進んでしまったというか、よりリスクのある企画には手を出さなくなってしまっていますよね。ひと言でいえば"売れる映画"に偏ってしまっている。今、僕が一番恐れているのはそれによって小規模だけれども良質な映画が作られなくなってしまうことです。ビジネスとして収益が見込めないからといって、そこの部分を閉ざしてしまったら、未来を支える新しい才能が日本の映画業界に入って来なくなってしまいますから」
――では、最後に、今後の抱負をお聞かせ下さい。
阿部「もちろん、映画を製作するしかありません。ちなみに今、考えている企画はいくつかあります。ひとつは、日本の世の中を変えてきた人物にスポットを当てた映画。たとえば吉田松陰、山本五十六、白洲次郎などです。特に吉田松陰は、後の世を動かした多くの"人"を育てたという意味で、現在の日本に最も必要だと思うんです。というのも今、日本の社会は人を育てていないですよね。大きなことを言ってしまえば、これは映画人としての責務とさえ思います。やはり僕は"人間"が好きですから、これからもそこにはこだわっていきたいです。好きな反面、嫌いなタイプもはっきりしていますが(笑)、これはもう僕のDNAがそうさせているとしか言えませんね。原点回帰のつもりで、気持ちの限り映画を作り続けたいと思います」
まるで少年のように目を輝かせながら、映画への思いを一気に語ってくれた阿部氏。還暦にして新たなステージに立ち、日本映画の未来を見つめる阿部氏が次に手がける作品は、きっと希望に満ちた前向きなメッセージを見る人に届けてくれるだろう。
映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』DVD&ブルーレイ
製作総指揮:阿部秀司
監督:錦織良成
出演:中井貴一、高島礼子、本仮屋ユイカ、三浦貴大、奈良岡朋子、ほか
発売・販売元:松竹映像商品部
価格:3,990円(DVD2枚組、ブルーレイ2枚組)、6,090円(DVD豪華版2枚組、ブルーレイ豪華版2枚組)
(C)2010「RAILWAYS」製作委員会