ゼロからの出発、小さき村の女性醸造家
「ドメーヌ・ロワ・マージュ」 / アンヌ・ソフィ・ドバヴェラエール(リュリー村)
さて、今度は県道981号線を5分ほど北に戻る。人口約1,600人のこの地域にしては比較的大きな村となるリュリーを訪問した。ここは赤も白も造っているが、どちらかというと白が優勢(白2/3、赤1/3)で、リュリーといえば白、というイメージを持つ人がフランス人の中でも少なくない。
村のランドマークである教会のすぐ裏手に、アンヌのドメーヌはあった。といってもそれは、彼女の自宅でもある。目の前にブドウ畑が広がり、背後に醸造所を構えていなければ、普通の田舎の一軒家である。が、そここそが彼女の「居」であり「働」であったのだ。
現在彼女はリュリーの生産者の組合長であり、ブルゴーニュワイン委員会の経済担当でもある。ディジョンの醸造技術師養成所で学び、まず1984年に1haの畑を購入。歯科医である夫の協力もあり、今はようやく10haにまで増やした。
畑には、ブドウの樹がもともと植わっていたわけではない。更地で購入し、自ら開墾している。多大なる時間と労を費やしていることは容易に想像できるが、逆に言えば他の誰の手にもかかっていないということで、100%自分のブドウ、つまりは完全オリジナルのワインになるということだ。
樹齢はまだ若い。今後は、ディジョンの学校で醸造修士(国家資格)のディプロマを取得して、今年2月からオーストラリアに研修に行っている息子のフェリックス(25歳)が将来はこの畑を担っていくという。頼もしい限りである。
シトー派の僧侶たちがこの地をワインの聖地に選んでから10世紀の時が経とうとするブルゴーニュにおいては、まだ産声をあげたばかり。今後に期待したい。