ナック・イメージ・テクノロジー社ブース~完全球体型LEDディスプレイが登場

ナック・イメージ・テクノロジー社は、完全球体のLEDディスプレイ「パノラマ・ボール・ビジョン」を展示していた。

こうした球体ディスプレイは、球体スクリーンの内部にプロジェクタを搭載する方式が一般的だった。内部のプロジェクタに魚眼レンズのような超広角レンズを組み合わせたり、あるいは、球体スクリーンの頭頂部に球面ミラーを配するなど、いずれにせよ、球体スクリーン内部から映像を投射する方式であった。

そのような内部からの投射方式だと、どうしても、球体表面上に映像の出ない領域、死角が出来てしまう。まずプロジェクタの投射レンズ近辺にはどんな広角投射レンズでも投射できないし、ミラー方式では、ミラーがある部分は影となって映像が出ない。

しかし、このパノラマボールビジョンでは、球体全面に映像がでるようになっており、死角がない。ここが画期的な点だ。

これはどのように表示しているのか。

普通に考えればRGB-LEDを球面に敷き詰めることだが、コスト的に考えてそれはかなり無理がある。

そこで、パノラマボールビジョンでは、原理的には人間の目の残像効果を利用して映像を見せるLED POV(Persistence of Vision)の原理を使って実現している。振ることで矢印が浮かび上がる誘導用の警告棒や、文字が浮き出る靴や扇風機などが存在するが、あの原理を使う。

経線状にRGB-LEDラインを実装している。球体が回転し、その残像で球面状の映像を結像させるという原理

回転が安定する前の初期の映像

回転が安定すると、球体の表面全域に映像が浮かび上がる

パノラマボールビジョンでは、球体に経線状にRGB-LEDを配列させ、球体を緯線方向(横方向)に回転させ、経線上のLEDラインの残像で像を結ばせる。つまり、球体状に貼り付けられたLED POVが回転し、この球面状に現れる残像を映像として観測者が見る…ということだ。

経線状のRGB-LEDラインは解像度が320ドット分あり、これが6本設けられている。これが毎分500回転、1秒間に約8.33回転し、映像を作り出す仕組みだ。

ユニークな工夫としては、隣り合う経線状のRGB-LEDラインは互いに1ピクセル分ずれており、異なる走査線の奇跡を描く。丁度インタレース映像の軌跡を描くイメージだ。なので、RGB-LEDラインは320ピクセル分あるが、映像としては倍の640ピクセルのインターレース映像が球面状に現れることになる。ちなみに、残像として結像する映像の緯線方向の解像度も640ドットとなっている。つまり、パノラマボールビジョンでは、球状の640×640ドットの映像を映し出せると言うことだ。

映像はホストPCから映し出され、アニメーションや動画も表示可能。

地球外の惑星の表示例

最も基本的な活用は、デジタル地球儀、惑星儀、天球儀などの球状のデータを表示するといった用途になる。あるいは、天候シミュレーションのアニメーションや、統計情報などの各種データのジオグラフィック表示といった使い方も想定される。

しかし、意外にも、ナック・イメージ・テクノロジー社の担当者によれば、元々は、全方位で捉えたパノラマ写真などを球体状に表示することを想定して開発したとのこと。

実際に、デモでは、地球儀的な映像の他、様々なロケーションで撮影した全方位方向に撮影したパノラマ写真をスライドショー形式で映し出していた。

面白いのは、どの方向から見ても、正面部分の映像は正常視界に見え、端は湾曲して見えると言うこと。解像度を落とさず、もう少し小型化することが出来れば、パノラマ写真のユニークなフォトフレームとして活用できそうだ。

意外にも、元々はパノラマ写真表示用のフォトフレーム的な活用を想定して開発された

パノラマ写真を映し出すと、常に球体の真正面が美しく見える不思議な表示になる

今回展示されていた試作機は直径約60cm。前出担当者によれば、「このまま、製品化したとすると、3000万円ほど掛かる」とのことで、量産化には、まだ超えるべき課題が多そうだ。

(トライゼット西川善司)