「LoiLoScope」開発のきっかけ
私は元々クリエイターです。LoiLo設立以前はゲーム会社のセガでゲームデザインを手がけていました。副業では、VJやミュージッククリップの作成など、映像制作の仕事もしていました。
映像制作はすごく大変な仕事です。2Dソフトや3Dソフト、コンポジットソフト、編集ソフト、音楽編集ソフト、いろんなソフトウェアを使い分けながら制作を続けていきます。この作業では毎度、"何かを操作してから結果を見る"までの待ち時間が気になっていました。編集ソフトはバージョンアップを重ねるものの、新機能が増えて動作が重くなるばかりで、待ち時間はいっこうに改善されない。徹夜仕事も減りません。この待ち時間がなければ……といつも考えていました。
ゲーム会社でクリエイターを続けながら、映像インスタレーションとして自分たちの映像パフォーマンスを実現する。そのために、映像系の仕事があるたびに、自分で開発した映像パフォーマンスソフトを改良していきました。その中で「LoiLoScope」の源流となるソフト「ecou(エコウ)」が生まれました。
VJ稼業の傍らで作ったソフトが「LoiLoScope」のきっかけに
「ecou」の誕生は1999年。私の弟で、LoiLo代表取締役社長である杉山浩二が、突然作ってきました。当時使用していた映像パフォーマンスソフトは、320×240ドットの動画をプレイするだけでもギリギリの仕様でした。ところが「ecou」は、テレビ画質、いわゆるSDサイズ(640×480ドット)の映像を何枚も重ねてプレイでき、かつDVカメラで撮影したリアルライム映像にエフェクトをかけることも可能。実にカッコよくMIXできたわけです。そしてすでにGPUアクセラレーション技術が使われていました。この「ecou」が、「LoiLoScope」の母体となった"ecouEngine"の源となっていきます。
ある日、職場で映像編集の作業中、前夜のVJ中の記憶がよぎりました。「『ecou』のように速く処理してくれたら……」。そして、VJ仲間たちが、我々の「ecou」を活用する姿を見ていて、ある構想が浮かびました。VJ仲間の中には、他の映像編集ソフトが難しくて使えない人も多くいて、「ecou」でのプレイ映像を録画して編集するという荒技で作品を作っているケースもありました。「この『ecou』を映像編集ソフトにしたらどうなるんだろう」。
そんな妄想がきっかけでした。ただ、この構想を完成させるには、まずは弟と私が1年間、完全に開発に集中できなければ到底ムリな話でした。VJソフトのままではだめ、イチから作り直さなければいけない……。そんなとき、ちょうど慶応大学湘南藤沢キャンパスの「Innovation Village」(IV)にオフィスを構えることができ、IVのインキュベータの方からIPA(情報処理推進機構)主催の「未踏ソフトウェア創造事業」の存在を紹介されました。そこで2006年度下期未踏ソフトウェア創造事業に「LoiLoScope」の構想を出願。それがまさかの採択で、スーパークリエータに認定。思いも寄らぬ流れでしたが、思い切って2007年4月に会社を独立しました。会社設立には弟も参加し、ここから本格的に「LoiLoScope」の制作を開始したわけです。
マイクロソフトのCSRプログラムで「LoiLoScope」完成へ
未踏ソフトウェア創造事業とほぼ同時期、マイクロソフトの「インキュベーションプログラム」にも出願しました。マイクロソフトが自治体と協働でITベンチャーを支援するプログラムで、選定企業は、マイクロソフトから事業に必要な技術支援を受けることができます。
インキュベーションプログラムに応募したのは、マイクロソフトからのサポートなしには、"良いもの"はできないだろうと考えてのことでした。というのも我々は「LoiLoScope」の開発にあたり、「Microsoft Visual Studio 2005」を使ってほぼゼロからの作り直しに着手していましたし、DirectXのフル活用が必要なシステムを考えていたからです。また、プログラム担当の弟とデザイン担当の私はともに出身がゲーム会社。ゲーム制作的な作業を進めるためにも、効率的に共同作業ができる環境が不可欠でした。そこで見つけたのが、WPF(Windows Presentation Foundation)アプリケーションと、それを開発するためのツール、「Microsoft VisualStudio」「Microsoft Expression Blend」の存在でした。このツールを使いこなすためにも、マイクロソフトのサポートはぜひとも欲しい。WPFを使い、これまでの映像編集経験を新たな画編集インタフェースの再構築に活かすためにも、技術資料が欲しい。
結果、インキュベーションプログラムの選定企業となれたことはラッキーでした。
開発スタート時、WPFのベースとなる.Net Framework 3.5とDirectXは最先端の技術であり、取り組み当初から頼れる資料がありませんでした。手探りで開発していたのですが、インキュベーションプログラムに選定されてからは、マイクロソフトの各技術の専門家=エバンジェリストの方々と知り合うことができました。そして実際に多くの面で助けられました。たとえば「LoiLoScope」の開発で、UIとハードウェア間のやりとりに関してどうしてもわからない壁ができてしまったときも、エバンジェリストのサポートでなんとか乗り越えることができました。
そして当社にとってさらに大きな一歩となったのが、「LoiLoScope」の開発が認められ、「Microsoft Innovation Award 2007」優秀賞を獲得したことでした。この賞をきっかけに、米国で開催されたデベロッパーイベント「MIX」や「PDC」に招待され、現地で多くのWPF開発者やBlend開発者と交流を持つことができ、開発がより楽しくなっていきました。そうした海外の開発者やマイクロソフトのエバンジェリストの方々と情報を共有しながら作り上げたノンレンダリング動画編集ソフト「LoiLoScope」は、スピードと使いやすさにおいて独自の境地を開拓できたと思います。
「LoiLoScope」の今後について
ゲームデザインやVJワークを手がける中、漠然と描いていた新たな動画編集の体験。「ecou」との出会い。未踏ソフトウェア創造事業やマイクロソフト インキュベーションプログラムなどを通じた多くの人との交流もあり、独立から「LoiLoScope」は思わず順調に世に送り出すことができました。もちろん今後も「LoiLoScope」は進化していきます。
「より高度で複雑になるのでは?」と不安に思う方はご安心を。複雑になっていくのではなく、"かんたんで楽しく使える"ように、ユニークなアイデアをたくさん投入していきます。次回のアップデートでは、フルHDの動画でもサクサクと編集できるようにする予定です。