今までにない色を生み出すカラーデザイナーの存在

――ユーザーがケータイを選ぶうえでボディカラーはきわめて重要な要素だ。しかし、カシオのようにデザインチームに色の専任者がいるのは珍しい。

井戸氏 一般的なプロダクトデザインの流れとしては、形状を決めたうえで最後の行程として色を決めます。そのため色の細かい部分にこだわる時間が取れなくなることもあります。カラーデザイナーがいると、デザインの早い段階から使用する素材も含めたカラー検討を進めることができます。そのことにより完成度の高い質感が実現できます。

――ケータイの開発には約1年を要する。カシオでは、そのうち約8カ月間にデザイナーが関わり、その半分の約4カ月間にカラーデザイナーが関わるという。

W63CAのカラーリングを担当した菱山氏

菱山氏 デザインモックが完成し、出したい色を決めてから、それを塗料メーカーに持ち込みます。塗料メーカーの技術者には材料の配分などを変えたいろいろな段階の色を作ってもらいます。今回のシャインピンクのように難しい色を出したいときは、その色を得意と思われる技術者をこちらから指名しています。われわれが独自に入手した最新のパールを持ち込んで、生産性も見極めた上でそれを使ってもらうこともあります。

――カシオの場合、塗料は複数のメーカーのものを使っており、その色によってメーカーを変えているという。W63CAは、プラスチック用の特殊塗料の専門メーカーとして名高い武蔵塗料に発注したという。

菱山氏 塗料を決めたあと、量産する工場の製造ラインでの塗装トライも行います。量産ラインにおいては、パールの量であるとか、膜厚は何ミクロンまでしか載せられないといった、手塗りの試作ではわからない別の制約が出てきます。一見すると同じ色に見えても、わずかなことでハイライトやシェードの見え方は違ってきますので、最終的に目指す色を実現するのは非常に難しいです。生産性を考慮した上での色再現には、何日もかけて狙いの色を出します。

――量産ラインで試作したパネルを見せていただいたが、素人の目には「ほとんど差がないのでは? 」「どれもきれいに見えるが? 」と思えるものが並んでいた。

菱山氏 わかる人にしかわからないレベルのものもあるでしょうが、われわれが見れば違いはわかります。最終的にひとつに決める基準は「お客様が手に持った時になんかいいね」と感じられるかどうか。その「なんか」が非常に重要で、お客様に選んでいただけるポイントになるわけです。そのために、われわれは妥協せずに作り込んでいきます。

塗料メーカーで試作したW63CAの背面パネル。プラスチックの成形品にベースカラー、パール、トップの3層コーディングが施されるが、分量バランスなどにより発色は大きく異なる

量産ラインで試作した背面パネル。さまざまな条件下で輝度や光沢などを厳しくチェックし、商用品として採用する1色を決めるという

ピンクの次に挑戦したい色はビビッドなブルー

――W63CAの4色バリエーションのうち、最も売れ行きが好調なのはアイスホワイトで、チタニウムゴールド、シャインピンク、メタルグリーンの人気順だという。

井戸氏 といっても、売れ行きに大きな差があるわけではなく、女性ユーザーに限ればシャインピンクが圧倒的に人気を集めています。色のトレンドには移り変わりがあり、郵便ポストでも時代によって色が変わっています。最近はかなり青味がかった赤になっています。シャインピンクも、そうしたトレンドも意識して生み出した色なので、それが多くの女性から支持されたことは、非常にうれしかったです。