目指すピンクへの取り組みが始まったのは5年前

――女性向けのカラーとしてケータイで採用されることが多いピンク。しかし、カシオ製のケータイで使われることは少なく、近年ではW51CAで使われた淡いブルームピンクの1機種のみだ。しかし、同社のデザイン室では、商用化には至らなかったものの、新しい機種のデザインモックができるたびに、理想とするピンクを出すための試行錯誤を繰り返してきたという。

A5401CAのイエロービー(左)、W41CAのフィエスタオレンジ(中央)、W51CAのブルームピンク(右)など、カシオは斬新なカラーリングの携帯電話を世に送り出してきた

菱山氏 性別や年齢に関係なく、本当にそのピンクが好きな人に向けたビビッドなピンクのケータイを作りたいという思いはかなり前からありました。じつは、2003年5月に発売したカメラ付き携帯電話の2号機(A5401CA)からピンクに塗装する試作を重ねてきたんです。

カシオのデザインチームが約5年にわたって試作したピンク塗装の歴代モデル。右上のEXLIMケータイ W53CAは実際の量産ラインで塗装した実用機で、井戸氏が現在使用している機種だ

――取材時に、歴代のピンク試作機を見せていただいたが、いずれも「このまま売ってもよいのでは? 」と思うほど鮮やかなピンクで塗装されていた。井戸氏と菱山氏が、ここまでピンクにこだわることになったのは、塗料の展示会で見た海外(欧州)の塗料メーカーの非常に彩度が高いピンクがきっかけだという。

菱山氏 主に自動車メーカーに向けた展示会だったのですが、そこで非常に彩度が高くて発色もよく、深みのあるピンクを見かけました。それまでに見たことがないピンクで、見た瞬間にこの色のケータイを作りたいと思いました。その塗料を出展していたメーカーに、材料を分けていただき、すぐに試作を始めました。

――しかし、理想の色を出せる材料があっても、実際にケータイの筐体に塗装し、それを量産するということを実現するためには、さまざまなハードルが待ち受けていた。

菱山氏 われわれが入手した塗料は、パールの粒子が非常に大きかったため、トップコートの塗膜から粒子がとび出し、デコボコになってしまいます。見た目の平滑感が出ないだけでなく生産性やコストの面でも量産はできませんでした。

――W63CAのシャインピンクもそうだが、塗装クオリティにこだわるケータイの多くは3層コーティングが施されている。ベース色としての塗料があり、そこにパールなどを含む塗料を重ねて、最後にトップコーティングが施される。シャインピンクの場合は、平滑感のある艶やかな光沢を出すためにフルグロスのUVトップコートが用いられている。

3層コーティングが施されたW63CAのモックアップ。さまざまな組み合わせを試して色を決定するのだという

菱山氏 ベースの色やパールの種類や量の組み合わせによって、色の見え方は変わります。わずかな分量の違いによって、輝度感はあるが深みが出なかったり、偏光色として青を狙ったのに補色である黄色が出て色がくすんでしまったりということもあり、理想とする色を出すのは非常に難しい。フルグロスのものは平滑感を出すことも重要なので、蛍光灯の映りこみがまっすぐシャープに見えるかどうかもチェックします。塗り方や乾燥時間が変わるだけでも、波を打っているよう(ユズ肌)に見えたりして、そのクオリティを出すために苦労します。