"母親的強さ"を見せつける
――原作である『思い出トランプ』を読んだ感想を教えていただけますか?
田中「読み始めは、衝撃的でした。私の演じる"英子"は、指という字が怖くて新聞が見られなかったり、子どもを見ると全員が自分の子どもに見えちゃったり……。ものすごい孤独感やいろいろな後悔、忘れようとしている苦しさが詰まっていて、ちょっと怖い感じの印象だったんです。でも、わずか一行や二行の文章で、ものすごく旦那さんのことを愛していたんだなぁとか、子どものことを想っているんだなぁとか、愛を感じる部分があって。シンプルだけど、すごく人間らしさが伝わってくる作品だなと思いました」
――小説には13篇の短編が収録されていますが、舞台上では『大根の月』を物語の軸として4つの話で構成されているそうですね。
田中「私が演じる『大根の月』の主人公・英子の母親が『かわうそ』に登場する女性だったり、父親は『かわうそ』の主人公で、その友人が『だらだら坂』の主人公だったり。4つのバラバラだった物語が交差したり、連動したりして絡み合って進んでいくので面白いですね」
――今回、子どもをもつ母親を演じるわけですが、役づくりで苦労されている部分はありますか?
田中「"母親的強さ"というのは、現実の自分にはない部分なので、想像したり、他の役者さんにお話を聞いてみたり、演じながら探っているところです。手を伸ばして役のイメージを掴んでいっている感じですね。ただ、作品の根本にあるのは、女性の強さだと思うので、そういった逞しさを自分がしっかりもって演じていければいいなと思います」
――原作の最後は、幸せなのか不幸なのかの判断は読み手次第……という印象を受けたので、舞台上ではどんな結末が用意されているのか気になりますが。
田中「ネタバレですね(笑)。自分の進むべき道を歩いていく強さを描いていますね。お母ちゃんの強さを見せつける、みたいな(笑)。女性のほうが共感できる部分があるかもしれないです」……続きを読む
『思い出トランプ』
英子(田中麗奈)が、離婚を前提とした別居に踏み切って1年近くが過ぎた――。別居の原因は、英子が大根を切っていたときに、息子の指を誤って切ってしまったことで姑との諍いが激化したことにある。ありふれた日常生活の断片を切り取り、親子の愛情や夫婦の愛情を描き出す直木賞作家・向田邦子による人間味溢れる物語。