大作だけでなく、小さな作品も作り成長していきたい
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)で、日本最大のヒットメーカーとなった本広監督だが、彼の舞台に対する姿勢からは、やや小規模な作品に興味が向いているような印象も受ける。
本広 : 「映画とかをこう作ればお客さん喜ぶし、興行成績も良くなるなっていうのは凄いよくわかるんですが、同じものを続けていくのって、やっぱり1回しかない人生だとしたらもったいないと思うんです。『踊る大捜査線2』がもの凄く大ヒットしてして、あれ以上の現象は、今後もう起きないと思うんです。あれがピークだとすると、"あとは何ができるんだろう。やれなかったことをやろう"って気持ちなんです。僕はやっぱり小規模な作品も好きです。それをやらないと精神のバランスがとれないんですよ。娯楽映画ばっかりやっていくと、"こんなもんでいいんでしょう"っといった方向にいってしまうんですよね。そうすると、小規模の作品も作んなきゃと思うんですよ。『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)って映画も、実は演劇からインスパイアされて作った、愛すべき小さな作品なんです」
普段の活躍の場よりも小さい舞台の世界に取り組みつつ、本広監督はさらなる先を見据えている。
本広 : 「僕は、舞台の世界で良い仕事をしている役者さんたちを、ドラマとか映画の世界に流しこんでいけたらいいなと思ってるんです。『FABRICA』の役者さんもいっぱい出て、これまでにないムードを醸し出したのがドラマの『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系 2007年)なんです。『SP』は映画版も監督しますし、これからもこういった流れを続けていけたらと思います」
舞台『FABRICA』の世界にまだ触れていない人々にこそ、本広監督は今回のDVDを観て欲しいようだ。
本広 : 「舞台はやっぱり生で観ていただいた方がいいんですけど、今回の公演で3本目ですし、過去の資料として観て頂きたいですね。もちろん、『サービス精神を忘れずに作ろう』っていうことでカット割りはちゃんとしてあるし、メイキングなんかもたっぷり面白く作ってあります。このDVDを観て、『だったら、今度の芝居を観に行こう』という風になってほしいです。それに、この舞台で熱演されている役者さんたちが、『少林少女』(2008年)や『SP』にも出演しているので、映画やドラマの方にも興味を持って観てもらえると嬉しいですね」
本広監督は、これからどこへ向かうのだろうか?
本広 : 「近年、テレビディレクターの作る映画じゃないとヒットしないという傾向があります。それが面白いと受け入れられているのは、お客さんにちゃんとサービスしてるからなんですよ。でも、そればかり増え過ぎていて、だんだんお客さんも飽きてきていると思うんです。『じゃあ次はなに作ろうか?』と考えたとき、『骨太な映画を作ろう』とか『メッセージや想いが詰まった作品を作ろう』っていうのは、訓練すれば出来ると思うんですよ。だから僕は監督としてやれないものはないと思っています。ミュージカルも出来るし、バレエとかもやれると思います。後は僕がどれだけ勉強しているかだと思うんですよ。今回の『FABRICA』で、かなり勉強は進んでるので、いろんな可能性はありますよ。僕は映画だけに留まろうとは思ってないんで……。でも、映画の世界で後進の人たちを育てるっていうのも、もしかしたら自分の役割かと思い始めているんです」
自分自身が成長しつつ、若世代も育てていきたいという本広監督。彼は「常に新しい才能と共に仕事をしたい」と熱く語る。
本広 : 「うちの助監督さんたちも、みんな壁にぶち当たってるんですよ。いっぱい壁にぶち当たっているのを見ると、『なんとかしてあげなきゃ』と思って、彼らのために色んなプロジェクトを考えたりするんです。だから、チャンスは沢山あると思います。この世界に憧れるとかじゃなくて、自分に才能やアイデアがあると思う人は、僕にコンタクト取ってぶつかってきてほしいですね。そうするとなんか道が開けると思うので。僕はもう40歳を過ぎてるんですけど、いつも若い人たちのそういう姿を見て、『自分も変化していかなきゃ」って思うんです。そうやって影響し合っていくと、どんどん面白い作品が出来ていくし、楽しいですよね。今回の『FABRICA』もそんな作品のひとつだと思います。悩みながら学び、楽しむというか……」
大ヒットメーカーという己の立場に甘んじることなく、監督としてさらなる成長を目指しつつ、後進にも目を配る本広監督。『FABRICA』で、そんな本広監督の新しい表現に触れて欲しい。
本広克行 プロフィール
1965年、香川県出身。『悪いこと』(フジテレビ系 1992年)でドラマ監督デビュー。その後、数々のテレビドラマシリーズを監督。映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)で173億円の興行収入記録し、ヒットメーカーとしての地位を不動のものとする。主なテレビドラマの代表作に『お金がない!』(フジテレビ系 1994年)、『踊る大捜査線』(フジテレビ系 1997年)、『アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~』(フジテレビ系 2001年)、『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系 2007年)など多数。映画監督作品に『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)、『スペーストラベラーズ』(2000年)、『サトラレ』(2000年)、『交渉人 真下正義』(2005年)、『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)、『UDON』(2006年)、『少林少女』(2008年)など。演出を手がけた舞台『FABRICA[11.0.1] LOST GARDEN』が9月13日~23日、赤坂RED THEATERにて公演。ROBOT映画部所属。