10コースほどある「癒しの森」コースのうち、初心者向けの「御鹿(おじか)池一周コース」へ。全長約1.2キロ(所要時間は約1時間30分)のコースの一部を歩く。案内役は、養成講座などを受けて認定された森林メディカルトレーナーと呼ばれる地元の方々だ。今回はトレーナーが所属している「ひとときの会」会長の鹿島岐子(みちこ)さんに案内していただいた。
黒姫童話館から出発して、すぐ目の前に広がる森を目指す。一般的なスギより柔らかな印象のクマスギの森に沿ってチップロードを歩き、森の中へと入っていく。4月末であいにくの小雨模様。広葉樹に緑はなく、肌寒いものの、森の「空気」は感じられる。
「森を歩いているだけでも、リラックスするでしょう」。鹿島さんの言うとおりだった。そよ風の音、道端の小川のせせらぎ、鳥のさえずり。春を迎えようとしている森を、少しの間歩いているだけで、何となく気持ちが落ち着いていた。
森の効能はさまざまだ。そのひとつは「1/fのゆらぎ」。せせらぎやそよ風の音など自然界に存在し、人間や動物を心地好い気分にしてくれる。「ゆらぎ」とは、予測できない不規則な空間的、時間的な動きのことで、何種類かに分類できる。「1/fのゆらぎ」にはまだ謎が多いが、生体のリズムと同じことがわかってきたという。ちなみに、1/f の" f"は周波数(frequency)の頭文字である。
森の香りには、フィトンチッドという成分が含まれている。これには自律神経を安定させるリフレッシュ効果に加え、消臭・脱臭効果、抗菌・防虫効果といった効果があり、天然のマイナスイオンとともに、心身をリラックスしてくれる。後述する「森林セラピー研究会」の健康効果調査では、都市よりも森林にいる方が脈拍・血圧の低下が見られ、ストレスホルモン濃度も低下した。
「調査結果では、健康面での効果が確認されましたが、健康になるというよりは、本来持っているその人の心身の状態が回復されるということでしょうね」。森は心、精神へのカウンセリングの場でもあると鹿島さんは言う。
森林メディカルトレーナーは、ただ森を案内・解説するだけではなく、参加客ひとりひとりと事前に話をし、その人に合ったコースや内容を考えていく。「参加者には、都会の企業で働く30~40代の女性が多いのですが、森の中で一人きりになってもらうこともよくあります」。森の中で一人きりになると、じっくりと自分と向き合うことができるという。また、親子や夫婦などでも、普段とは会話の内容が変わり、深い話ができるらしい。
御鹿池をめぐりながら、樹木に触れたり、小枝のいい香りを嗅いだりした。五感をフルに使って森を堪能することを教えてもらう。最後は、ゆっくりと大きな深呼吸を池のほとりで行った。最も効果的な森林セラピーの療法とのことで、心身がさらにリラックスし、ほぐされていく気分になった。