人間がそうであるように、都市にもまたもっとも輝ける最良の時代がある。「芸術の都」パリを例にとるなら、それはロマン派が登場した1830年代から、パリ万博を経て世界中の若き芸術家たちを引き寄せた1930年代までの100年間といえるだろう。「芸術都市パリの100年展 ~ルノワール、セザンヌ、ユトリロの生きた街 1830-1930年」は、その100年をテーマにした展覧会だ。この間、パリは大改造によって理想の近代都市に生まれ変わり、今日見る「花の都」に変貌を遂げた。副題にもある通り、ルノワール、セザンヌ、ユトリロをはじめ多くの芸術家が、この時代のパリに生きた。
だがこの展覧会の主役は、そんな画家たちでも彼らの描いた名画でもない。彼らが愛したパリという芸術都市そのものである。パリが、いかにしてすぐれた芸術家を輩出したか。その魅力とはいったい何なのか。栄光の100年間を振り返ることで探ろうとする。折から2008年は、日仏修好通商条約締結150年の節目の年。それを記念して、ルーブル、オルセー、ポンピドゥーをはじめパリ市内13館、地方3館の有名美術館が、ルノワール、セザンヌ、ユトリロ、フジタ、ルソー、ロダンなど、約150点もの名品を出品協力して展示構成された。
油彩画や素描だけではない。版画、彫刻に加え、この時代に新たに登場した黎明期の芸術である写真も、40点を超す数が出品されている。この展覧会のテーマとなっている100年は、実にフランスにおける写真の誕生と発展の時代とぴたりと符合しているのだ。記録からスタートした写真は、変貌するパリの風景に触発されるかのように、芸術性を高めていく。ここにもまたパリという街が、芸術を育んでいく過程を見ることができるだろう。
展覧会は全体を5章に分け、パリの都市景観、市民生活、そこに生きた男女のドラマ、そして田園への憧れによって、芸術都市の栄光の100年を振り返っていく。それはまるで時空を超えてパリという街を自在に動き回るマジカルな都市ツアーだ。世界中の芸術家を引き寄せたパリの魅力とは何だったのか。それでは、いよいよ栄光の時代のパリへと旅に出かけよう。あなたもしばし憧れの都の住人だ。