最後の2000年代ゾーンに入る前に、来館者は奇妙な部屋を通り抜けることになる。何もない広々とした部屋。一枚の絵も、小さな彫刻すら置かれていない。怪訝な顔で通り過ぎようとする来館者の頭上で、ただ照明が明滅する。そう、この空間自体がマーティン・クリード(2001年受賞)の作品「ライトが点いたり消えたり」なのだ。日常をアートにしてしまうクリードの作品は、ふだん気づかないものに意識を向かわせる。
奥はキース・タイソン(2002年受賞)の「考える人(ロダンに倣って)」とアトリエ壁画シリーズ。手前はグレイソン・ペリー(2003年受賞)の陶器 |
サスキア・オルドウォーバース《キロワット・ダイナスティー》2000年 ビデオ 6分 ナレーター: ジーン・リー Courtesy: Maureen Paley, London |
新世紀に入ったターナー賞は、「50歳以下の英国人」という応募基準に「英国内で活動するアーティスト」の一項を加えた。これにより、ロンドンで活動する多くのアーティストに門戸が開かれ、現代美術の世界はさらに活性化する。事実、2000年度の候補者4人の内3人までが外国人で占められ、ロンドンで活動するドイツ人写真家ヴォルフガング・ティルマンスが受賞した。これによりターナー賞の名は、ますます世界的になっていったのだ。
ティルマンスは、身の回りで撮影したありふれたスナップショットを様々な方法でプリントし、それをインスタレーションとして展示した。今回も広々とした空間に、数多くの写真が構成展示されている。その作品配置だけでなく、ピンやテープで貼るといったさまざまな展示方法まで含めて、作家が垣間見た世界が伝わってくる。
グレイソン・ペリー《ゴールデン・ゴースト》2001年 67xφ35.5cm 陶 サーチ・ギャラリー、ロンドン蔵 |
ヴォルフガング・ティルマンス《君を忘れたくない》2000年 インクジェットプリント Courtesy: The artist and Maureen Paley, London |
テート館長のセロータ氏は、ターナー賞の23年間を振り返って、もっとも大きな変化を3点挙げた。写真やヴィデオなどカメラを使った映像作品の増加、インスタレーションの増加、外国人アーティストの活躍。ティルマンスは、そのいずれにも該当する、まさに2000年代のターナー賞を象徴する存在そのものといえるかもしれない。
2007年の受賞者マーク・ウォリンジャーのヴィデオ作品「スリーパー」で「ターナー賞の歩み展」は終わりだが、実はその先にも注目すべき展示がある。森美術館が世界各国の若手アーティストを応援する「MAMプロジェクト」第7弾として、ロンドンで活躍するオランダ人アーティスト、サスキア・オルドウォーバースの映像作品が2本上映されている。手の込んだミニチュアセットを作り、それを撮影して生み出された不思議な空間。テート館長のセロータ氏もなかなかいいと誉めていた。未来のターナー賞候補かもしれない。ぜひ立ち寄ってほしい。
展覧会名 | 英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展 |
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会期 | 2008年4月25日(金)~7月13日(日) |
会場 | 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階) |
開館時間 | 10:00~22:00(火は17:00まで・4/29、5/6を除く) |
休館日 | 会期中無休 |
主催 | 森美術館、テート・ブリテン、ブリティッシュ・カウンシル、朝日新聞社 |
入館料 | 一般=1,500円 / 大学・高校生=1,000円 / 4歳以上-中学生=500円 |