次のゾーンへ進むと、今度は多様なスタイルの肖像画が並ぶ。「III章 過渡期の時代 : カリアティッドからの変遷──不特定の人物像から実際の人物の肖像画へ」と題されたこの一角には、まだ我々の知るモディリアーニはない。それはまさに過渡期の時代。カリアティッドから出発したモディリアーニが、独自の様式を求めて模索を続けた日々の苦闘が伝わってくる。
1914年、モディリアーニはそれまで志していた彫刻家への道を諦め、画家に専念する。従来虚弱体で石を彫るほどの体力がなく、高額な石材を購入するため金銭面の困難も追討ちをかけた。一方同年には第一次世界大戦が勃発。彫刻を諦める原因となった虚弱体質が、ここでは幸いして兵役不適格の理由となり、パリで創作活動を続けることになる。
この時代のモディリアーニは、色とりどりの斑点で描くタシスムを取り入れたかと思うと、突然一時的にキュビズムに走ってみたり、絵の具を厚塗りしてみたり、画法が一向に定まらない。世の中が戦争という深刻な事態に直面する中で、モディリアーニ自身も己の苦悩と必死に闘っていた時代。会場に展示された多様な作品には、そんなモディリアーニの内面の苦悩と混乱がにじみ出ているかのようだ。
模索と逡巡の末に確立した独自の様式
最後のゾーンである「IV章 仮面からトーテム風の肖像画へ : プリミティヴな人物像と古典的肖像画との統合」に至ると、目の前にいよいよ我々が知るモディリアーニが姿を現す。ずらり並ぶ肖像画は、どれもおなじみのあのモディリアーニだ。逡巡と模索を続ける中で、進化を続けたモディリアーニの肖像画は、ついに独自の様式を確立したのだ。
まるで仮面のような無表情な目をした顔を通して、モディリアーニは逆説的にそのモデルの本質を描こうとした。単純な線と色彩を用いながら、描き出された姿は時に皮肉っぽく、また時には慈愛に満ちている。それこそが、モディリアーニが迫ったモデルの本質的な人間性だった。プリミティヴィズムで得た人間の本質の捉え方と、伝統的な西洋美術の画法を統合して至ったモディリアーニ独自の肖像画の世界である。
IV章に展示された肖像画には、話題の作品も多い。情熱的な恋の末、2児目を身ごもったまま、モディリアーニの後を追って自殺したジャンヌ・エビュテルヌをモデルにした作品は、油彩・素描合わせ7点も集められている。また、通称「マリー・ローランサン」と題される「女の肖像」は、モデルの内面を鋭く捉えた名作だが、展示されることは滅多になく、今回が約50年ぶりの公開。「ヴィエルホルスキ伯」も、2002~2003年にパリのリュクサンブール美術館で開催された「モディリアーニ展」でしか世に出たことがない貴重な作品だ。60年余りひとりの個人が秘蔵してきた「黒い服の女」は、今回が初公開となる。
モディリアーニとプリミティヴィズムの関係を見直すことで、「前衛画家」としてのモディリアーニに新たな焦点を当てた今回の「モディリアーニ展」。会場を一巡するだけで、モディリアーニの中でプリミティヴィズムがいかに中核をなす重要な存在であるか、また独特の画風を確立するまでの変遷が手にとるようにわかる。新しいモディリアーニ像を再発見して、あらためてモディリアーニの魅力の虜となるかもしれない。
似顔絵アーティスト桃井あおい氏の似顔絵イベント
モディリアーニの大ファンでもある似顔絵アーティストの桃井あおい氏が、「モディリアーニ展」の会期中、似顔絵イベントを開いている。制作時間は約2分。おしゃべりをしながら捉えた「ひと」の内面を描くことを追求しているという桃井氏。これまでに描いた似顔絵は約13万枚にも及ぶという。さっそく描いてもらってみた。楽しくおしゃべりしていると、あっという間に完成。いかがだろう? 「モディリアーニ展」鑑賞の記念に、ぜひ似顔絵を描いてもらっては。
名称 | 似顔絵イベント |
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会期 | 2008年3月26日・27日・30日、4月2~4日・13日・14日・16~19日、5月8日・9日) |
時間 | 10:00~18:00(金曜日は20:00まで) |
会場 | 国立新美術館1Fカフェ コキーユ |
展覧会名 | モディリアーニ展 |
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会期 | 2008年3月26日(水)~6月9日(月) |
会場 | 国立新美術館 |
開場時間 | 10:00~18:00(毎週金曜日は20:00まで) |
休館日 | 火曜日(ただし4月29日、5月6日は開館、翌水曜日休館) |
主催 | 国立新美術館、日本経済新聞社 |
入場料(当日) | 一般・1500円/大学生・1200円/高校生・700円 |