次の「II章 実験的段階への移行 : カリアティッドの人物像─前映画化への道」ゾーンへ進むと作品は一転、まるで縄文土器やアフリカ美術でも見ているかのような、単純な線と強烈な色彩に彩られた女性像が並ぶ。その作風のあまりの変化に驚かずにはいられない。プリミティヴィズムに出合ったモディリアーニが探求したのが、この「カリアティッド」と呼ばれる一連の作品群だ。

ずらりと並んだカリアティッド。モディリアーニは彫刻の下絵として数多くのカリアティッドを残した

カリアティッドとは本来、古代ギリシャの神殿建築で梁を支えている女性を象った柱のこと。アテネのアクロポリスにあるエレクティオンの人柱像が有名だ。この時代、まだ彫刻家を目指していたモディリアーニは、カリアティッドと題した石の女性像を多数つくり、ゆくゆくは「逸楽の神殿」を造ることを夢みていたという。そのために、たくさんのカリアティッドの下絵を描き、実際に彫刻を手がけている。彫刻はわずか2点しか現存しないが、下絵の素描は数多く残った。モディリアーニ作品では、こうした彫刻やその下絵の素描を「カリアティッド」と呼ぶ。

《カリアティッド》 1914年 ジョエル・D・ホニッグバーグ氏夫妻蔵

モディリアーニのカリアティッドを見ると、実に様々なポーズの裸婦を描いているばかりでなく、その技法も多様に試みている。鉛筆、アクリル絵の具、グワッシュ、油彩、さらにはそれらを混ぜたもの。自分が受けた伝統的な西洋美術に、プリミティヴィズムの要素を多様に取り込むことで、新たなフォルムを目指し、独自の様式を確立しようとする意欲が見てとれる。

会場に並ぶカリアティッドを見ていくと、来場者はすぐに気づくはずだ。大胆な描線で描かれた、アーモンド型をした黒目のない目、異様に長い顔や首……。そこには、すでに我々がすぐにモディリアーニだと分かる独自の様式の萌芽が見られる。

プリミティヴィズムという方向性を得たモディリアーニは、こうしてカリアティッドを通して完璧なまでの理想美の追求を続ける。その中で、彼の肖像画は着実に進化をしていった。モディリアーニは、モデルに似せて描くことを超越して、その内なる本質をより鮮明に描くことに近づいていったのだ。このII章を見ると、モディリアーニにとってプリミティヴィズムがいかに創作活動の中核となっているかが、はっきりと理解できるはずだ。

II章ゾーンには、カリアティッドの作品群がずらりと並び、作風が一変する

数々のカリアティッドを見ると、プリミティヴィズムがモディリアーニの核であることが理解できる