長年の経験に基づき、固定観念にとらわれず、柔軟な考え、アイデアでカット&トライを繰り返す。一流ミュージシャン達はPAのことも熟知しているため、逆にいろいろなアイデアを出してくれることもあり、その時々で参考にして最良をめざしている。中でも、特に思い入れのあるマイクはあるのだろうか?

「PA機材一式借りる場合も、基本的に普通のバンドメンバー分のマイクはカバーできる程度は揃えてあるので、その中からチョイスしたものを今回も持ってきています。例えば、この角松さんのヴォーカル用マイクは、ノイマンのKMS105で、角松さんの声に凄く合っていると思います。けっこう離れても音を拾うので、歌い上げる時とか離れていても声のレベルが落ちないんです。それから、パーカッション用にハエ叩きみたいなマイクがあるんですが、これ本来は会議用のマイクなんですけどね、元々は」

角松氏のボーカル用マイクは、ドイツの名門ノイマン社のKMS105というモデル。彼の声ととても相性が良く、マイクそのものの収音性能が高いため、歌い上げる時に口が離れても声のレベルが落ちないという

何と、会議などで机上にセットする、いわゆるバウンダリーマイクを利用している。メーカーはクラウンで、PZMというモデル。マイクと一体化した板に音を反射させて拾うのだとか。1台でバランスよく拾えるため、パーカッションのように、小さい音から大きい音までが混在し、しかも音楽の中で非常に重要になって来る全ての音をバランスよく拾うのが鍵になる。「ドラムセットの場合はある程度形が決まってますけど、パーカッションは人それぞれまるで違うんで、リハーサルの段階からいろいろ試してマイクの種類を変えてみます」

「ドラムスのセッティングはバスドラ用に定番の2本のマイク、ATM25(オーディオテクニカ)とBeta52(シュアー)を立て、モニター、ハウス共に扱いやすい方をチョイス出来るようにしてあります。また、スネア用のマイクはATM23(オーディオテクニカ)で、定番だとSM57(シュアー)なんですけど、ちょっとリムの鳴りとかを拾うにはいいかなと思って使っています。シンバルのマイクは、KM84(ノイマン)です。江口さんの場合はキットのバランスがいいので、アンビエント的にドラムキット全体の音も拾えるようなマイクをチョイスしています。コーラスのマイクも、彼女達の高音の綺麗さが定番のSM-58だと、バッキングボーカルの位置のままなんですけど、SM-87A(シュア)を使って上を伸ばして行くと、その位置から邪魔にならずにもっと前に出すことができ、凄くうまくいった感じがしています。後、いろいろな箇所で通常はシュアー57のところを、ゼンハイザー421にしたり、その逆をしたりしています。」

ドラムスのバスドラム用には、国産オーディオテクニカ製ATM25と米国シュアー製Beta52という2本のマイクを使用。両方とも定番だが、アーティストによって使い分けたりミックスしたりすることがあるそうだ

同じくドラムスのドラムオーベーヘッド用には、ノイマン社のKM-84というマイクを使っている。江口氏のドラムキットのバランスの良さを全体で拾うアンビエントマイクとしても使用している

つまり、音を拾った後で加工するよりも、入口そのものが重要ということなのだろう。

「僕のPAの考え方がそうで、客席もステージも全て同じ1系統。要するに、ここで鳴っている楽器の音が単に大きくなっているだけというようにまずするべきで、そのためには音を忠実にマイクで拾って、その音を忠実に再生するスピーカーがあって、そのスピーカー同士の兼ね合いに統一感があれば、いいんじゃないかなと思うんです。そのためには音を出している楽器のテクニシャン、モニターエンジニア、との連携が最も大事で、そこに支障をきたさないプランと音作り、円滑な関係で、統一した音場ができれば、自然と演奏もしやすく、聞きやすい環境が出来ると考えています。」

パーカッション用に、会議などで出席者の声を録音するのに使うバウンダリーマイクを利用している。一体化した板に音を反射させて拾うため、全ての音をバランスよく拾える。米国クラウン社製でPZMというモデルだ

バックコーラスのボーカルマイクには敢えてコンデンサー型を使い、女声の高音を活かしつつフィーチャーすることに成功している。シュアー社のSM-87というモデル