山寺といえば和尚さんというわけで、"オショー"のニックネームで呼ばれている。まさにその名にふさわしい温厚な人柄とお見受けしたが、こと音響に関しては、角松氏を始め百戦錬磨の名だたるミュージシャン達の音を担当するだけあって一切の妥協はない。ライブステージの壮大なショーをPA(パブリックアドレス)システムで支える山寺氏の仕事を拝見すれば、自ずと角松氏の音に対するこだわりと美学も見えてくるはず、とインタビューにも熱が入る。

山寺氏がこの道に入ったきっかけは、高校生の頃に行ったコンサートでの体験だったという。「ミキシングコンソールの、フェーダー(ボリュームを操作するスライド式のつまみ)や、ケーブルを接続するキャノンプラグが大好きなんです。音楽が好きで機械が好きで、その両方をやっている職業を見て、「これがやりたい」と、シンプルな理由からこの道に入りました」

そんな山寺氏と角松氏の付き合いは、かつてツアーで一緒に回っていた頃から数えて、すでに25年に及ぶというから長い。再会したのは、5年前の「summer4 rhythm 」ツアーだったとのこと。さて、音にうるさい角松氏とのコラボレーションで、一番苦労されるのはどの辺なのだろうか?

「そうですね。彼も言ってるんですが、それぞれのメンバー、ミュージシャンが一国一城の主であるということで、その部分がきちんと表現できているかどうかということに気を遣いますね」

よく山寺氏のミキシングに対する評価で、全ての音が聴こえていて凄い、ミュージシャンのやっていることが全て判るという記事を見かける。しかし、それは氏にとって当然で自然なことなのだと言う。

「そうでなければ、ミュージシャン達が存在する意味がないですから。そこに一番気を遣いますね。どんなPAでも同じなんですけど、基本はやはりミュージシャンが演奏しやすいということと、ミュージシャンがやっていることが、そのままお客さんに伝わると言う部分ですね。これは角松さんに限らず、僕の基本理念です」

まさにPAの使命はそこにあると思うが、通常レンタルが基本のシステムでも、山寺氏なりのチョイスが感じられる。まず、スピーカーはフランスのネキソ(NEXO)というメーカーのもの。これをドライブするパワーアンプはクラウン(日本ではアムクロン)、ミキシングコンソールは英国製のマイダス(MIDAS)である。加えて特筆されるのがマイクに対するこだわりだが、今回かなり個性的なミュージシャンが揃ったこともあって、さらなる相乗効果を生んでいるのではないだろうか。

PAの要であるミキシングコンソールは、英国マイダス社製のもの。音の好みから山寺氏は敢えてこのアナログ式の定番モデルを使って、最新のデジタルサウンドをミックスしている

ステージの上手と下手にうずたかく積み上げられた、フランス・ネキソ社製PAスピーカー

「僕はイコライザーを使って音を変えることは、あまりしません。マイクの種類を変えることによって、その楽器の良さを引き出していくというのが僕のやり方なので、今回のような大規模な回線数であっても、それぞれ吟味しています。オーソドックスなマイクでも、一本ずつここはこれでいいのか、という風に考えています」