コンテンツに必要なのは喜怒哀楽

実は『オキナワ 男 逃げた』には、"放送と通信の融合"に対する新しい提案も含まれている。

「おそらくインターネットもテレビも、この世から絶対になくならないんですよ。だから、何年も前から"放送と通信の融合"だなんて言われてきた。でも、これまでは『放送と通信が融合したら、こんなに儲かるんだからやりましょう』というのが基本スタンス。要するに、主にビジネス面と技術面からしか"放送と通信の融合"が語られてこなかったんです。『そうじゃないだろう』というのが、テレビの作り手である僕の考え。コンテンツそのものを重視して、放送と通信が融合すれば、新しい表現ができるし、作り手としてはそれをやらなければならないんです。今回の『オキナワ 男 逃げた』は、その提案のひとつなんです。『ビジネスマンではなく、コンテンツ自体を生み出す作り手が"放送と通信の融合"を語っていくと、どんな形になるでしょうか?』というね」

では、土屋氏が考えるコンテンツとは? キーワードは「喜怒哀楽」だという。

「ビジネス面から"放送と通信の融合"が語られるなかで、『ドラマに出ているバッグがその場で買えるようになるんですよ』という、ビジネスマンの発想に基づく発言が出てきましたよね。もちろん、インターネットを使って新しいビジネスができるという発想も大事だと思います。でも、ほとんどの制作者はそこで『そんなところばかり気になられたら、ドラマとしては失格だ!』と、思ったはず。僕ら作り手にとって大切なのは利益や便利さよりも、"もっと面白い"というような新しい感情なんです。テレビを観る側だって同じ。バラエティーを見るにしても『笑えるから好きなのよね』という理由だったり、ドラマを観て泣いちゃったり……コンテンツに接することで喜怒哀楽を求めているわけです。そのことを忘れて"放送と通信の融合"を語るのは違うんじゃないかな、と思うんです」

相互作用でクリエイティビティーの幅が広がった

今回、スポンサーであるNECとのやりとりの中で、ビジネスマンと作り手の行き違いはなかったのだろうか?

「それが全然なかったんです。クライアントは商品にして"広くたくさんの人に知ってもらうと同時に、人々にもっと深く知ってほしい"というニーズを持っているわけですよ。そこに、とんでもない数の人たちが観るテレビの"広さ"と、ネットのもつ"深さ"が完全に一致するんです。要するに、テレビで15秒CMを見ることで視聴者の中に"あ、この商品を見たことがある、聞いたことがある"という風に広まり、そこから興味を持った人が商品のホームページに来るという流れがそれです。今回はその流れをエンタテインメントにしているわけですが、NECさんが僕ら作り手に結構任せてくれたこともあって、どんどん企画が発展していったんですよ。例えば、実が新商品の携帯電話で撮った画像や動画も、想像以上に綺麗に撮れていたので、ブログで公開する回数を予定より大幅に増やしたり……。企画の発展に伴って、商品訴求の場とクリエイティビティーの幅が両方広がっているんです」

設立から2年、作り手側の目線で考える"放送と通信の融合"を提案してきた第2日本テレビの試みは、確実に実を結び始めている。

「今年はトヨタさん、リーバイスさん、今回のNECさん――大手のクライアントさんが第2日本テレビのオリジナル企画のスポンサーになってくださって、相互リアルタイムドキュメントや6秒CMコンテストや今回のドラマなど、作り手のニーズも反映していくことができた。この1年は特に、ビジネスとクリエイティブのいい相互作用を得られた年だと思います」