ダウンタウンの東京進出の仕掛け人であり、『電波少年』シリーズ(1992年~2003年)など大ヒット番組を世に送り出してきた日本テレビの土屋敏男氏。現在はインターネットテレビ・第2日本テレビの"商店会長"を務める土屋氏が、NECとタッグを組み、新しい"放送と通信の融合"を手掛けることに。今回、土屋氏が世に放つのは、日本テレビの番組『デジタルの根性』(水曜25:29~)で2回にわたって放送される(2回目が19日に放送)クロスメディア型ドラマ『オキナワ 男 逃げた』。過去に類を見ない"ネットと視聴者主導型のマルチエンディング・ドラマ"である。土屋氏は「作り手の視点から"放送と通信の融合"にアプローチすれば、新しい表現ができるはず。今回はそのトライアルです」と語る。彼がいま目指すものとは何なのか?
"作り手が揺れていくこと"の面白さと痛み
そもそも『オキナワ 男 逃げた』は、NECが携帯電話の新商品「N905i」および「N905iμ」(現在発売中)のプロモーションを目的とした企画を、第2日本テレビに依頼してきたことから始まった。
「新機種のターゲットが30代のラグジュアリー層だと伺い、その年代の女性を主人公にしたドラマ、しかもインターネットを使うのでマルチエンディングがいいだろう、と思いました。そこで、『電波少年』時代からの仲間である小山薫堂くんや、『14才の母』(2006年)の村瀬健プロデューサーと相談した結果、ブログを中心にコンテンツを考えていくのが楽しいという結論に至ったんです。というのも、例えば『14才の母』は"中学生の主人公が子供を産むか、産まないか"という物語でしたが、村瀬は公式サイトの掲示板に寄せられる視聴者の意見にすごく揺れたそうなんですよ。僕らテレビの作り手は視聴率ではなく、例えば電車や街の中で偶然耳にする視聴者の"生の声"がいちばんリアルに感じるし、結構動揺するんです(笑)。しかも、インターネットは匿名の書き込みですから、非常にストレートな意見が飛んでくる。ある意味、僕らにとって刃でもあるんだけど、それをきちんと受け止めてコンテンツを作っていったらどうなるんだろう、と。視聴者の意見によって作り手が揺れていくのは面白いだろうな、と思いました」
その結果、生まれたのが「ブログへの書き込みに影響されていく主人公」だった。今年11月2日には、主人公・美羽(りょう)が突然沖縄へ行ってしまった彼氏・実(中村竜)との遠距離恋愛に対する悩みを綴る同タイトルのブログを開設。書き込まれた読者コメントや体験談によって変化していく美羽の心境がドラマになるというわけだ。ブログ開設から約1カ月、土屋氏らスタッフは予想通り、揺れているという。
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「インターネットはフラットだと言われるじゃないですか。こちらが出しているものに対して、同じ高さでタイムラグなしに反応が返ってくる。普通テレビをやっていると、視聴率などといった漠然とした弾に下から撃たれる感覚があるのですが、今回はインターネットを媒介したことによって"水平に飛んでくる弾に撃たれる感覚"ですね。いちいち痛いんですよ(笑)。こんな痛みは経験したことがない! だからこそ、この痛みを乗り越えた先に、きっと新しいコンテンツがあるような気がしているんです」
とにかく新しい船に乗って港を出よう
ゴールはまだ見えない――そう言って、土屋氏は笑みを浮かべた。不安というよりは、むしろ新しい遊びに夢中になる子どものような表情だ。その表情の所以とは……。
「僕も何が起こるか、どこにたどり着くか、いまでも分からないまま、暴風雨の中で必死になっているんです。でも、それでいいんです。僕らがやりたいのは"新しいエンタテインメントの発見"。だから、僕は最初にスタッフに言ったんです。『これはドラマじゃないかもしれない。でも、とにかく新しい船を作ろう。その船にみんなで乗って、まず港から出るんだ。そしたら、僕らも見たこともない新大陸にたどり着くんじゃないか』って」