これまでの大会成績を見ていくと、上位入賞者にはノルウェーやアイスランドといった北欧の選手の名が多く登場していることがわかる。今大会の1日目前半はタイムオーバーとなる選手が続出していたが、そんな中、北欧勢は非常に安定感がある、といった印象を受けた。制限時間内に競技を終わらせるだけではなく、観客が歓声を上げるような"技"を披露する選手も現れた。

アイスランドのIngiblora Jona Sigurdardottir氏。終始落ち着いた様子だった

バリスタ、二刀流!?

スウェーデンのCostas Pliatsikas氏は、ある"技"で観客を魅了した。それは、エスプレッソを4杯分同時に抽出するという技だ。大会では3種類のドリンクを4杯ずつつくる必要があり、どのドリンクをつくる際もエスプレッソの抽出をするわけだが、通常4杯分のエスプレッソを淹れるとなると、まず2杯分のエスプレッソを抽出し、その後、再度2杯分のエスプレッソを抽出する、というケースが多い。このような流れとなるのはエスプレッソマシンの構造が大きく関係しているのだが、Pliatsikas氏はなんと一度に4杯を抽出するという技を披露してくれた。

片手に2本のホルダー(エスプレッソを抽出するための器具で、コーヒー粉を詰める部分)を持ち、粉を続けざまに詰めてタンパーでプレス(ホルダーに粉を入れた後は、タンパーと呼ばれる道具で圧力を加えるのがエスプレッソ抽出の基本である)した後は、ホルダー2本を同時にマシンへセット。難易度の高い技のように思えるが、Pliatsikas氏は流れるようにスムーズな動きで4杯のエスプレッソをあっという間につくりあげた。

手元がよく見えないのが残念だが、片手に2本のホルダーを持つという技を披露してくれた。時間短縮できた分、焦りの無い姿勢で競技に取り組んでいたように思う

こういった新しいテクニックは、これまでのWBCでも披露されてきたと聞く。ここで話題になり、様々な国のバリスタたちにその技が広まっていき、ブームのような現状を呼び起こすことも。つまり、WBCではバリスタのトレンドリーダー的な存在が誕生するかもしれない、ということなのだ。

悲喜こもごもな舞台

また、今大会への出場国リストを見ていくと、コーヒー豆の産地国出身者が多く出場していることに気付く。コロンビアやグアテマラ、ケニア、ブラジルなどがその例で、コロンビア代表のLuis Velez氏は「コロンビアのバリスタ代表としてだけではなく、コーヒー産地の代表として、WBCという舞台でコーヒーのすばらしさを伝えることができるのが何よりの喜びだ」と語っていた。そんな素敵なコメントをしつつ競技自体も順調に進んでいたように見えたが、最後にシグニチャー・ビバレッジを審査員へ提供する際、グラスを倒してしまうというハプニングが。審査基準の詳細は明らかにはなっていないが、これが減点対象となるのは容易に予想できる。Velez氏もやりきれない表情を浮かべ、見ているこちら側も胸が締め付けられるような気持ちになったほどだ。一方で、完璧とも思える作品を次々と完成させ、満面の笑みとガッツポーズで競技を終了する選手もいる。うーん、まさに人間ドラマ、といった様相。

順調に競技を進めていた分、最後の失敗が悔やまれるコロンビアのLuis Velez氏