特典映像は、硬い話抜きで楽しめます。
監督に今回のDVD化に関して聞いた。どんな特典映像が楽しめるのだろうか。
「『What is "チカン"!?』が凄く面白いです。僕自身はインタビューに答えているだけなんですが、ちゃんとしたドキュメンタリー仕様のユーモアとアイデアに溢れたもので、外国人の視点からは、痴漢はどんな風に見えるんだろうという作品です」
本編のコメンタリーでは、ちょっと違った監督の話が聞けるようだ。
「取材を受けていると、今回のように裁判制度など現実の話が多くなってしまうので、なるべくDVD本編のコメンタリーでは、映画作りの話をするようにしました。純粋な映画監督としての発言は是非DVDで(笑)。どこで書いても、話しても、ほとんど裁判の話しかしていないんで。逆にコメンタリーでは映画作りを熱く語ってます」
また本作は海外からも注目を集めているという。外国人の目に『それでもボクはやってない』は、日本とは違う受け取られかたをしているようだ。
「外国の人は不思議でね。日本のお客さんが驚いたり、ショックを受けているシーンで笑うんですよ。面白いみたいですね。裁判だけでなく、満員電車や痴漢という犯罪そのものが日本独特の物だから。そういう意味でも、外人の視点が垣間見られるDVDの特典映像は楽しいですよ」
監督・周防正行の今後
11年振りの新作を終えた監督には、明らかな変化が起こっている。
「この映画の制作中は凄いストレスが溜まってたんで、次はバカバカしい方向にすぐ行くだろうと思っていたんですけど、けっこう尾を引いちゃってますね。まだ傍聴を続けている裁判があるんです。裁判員制度のために裁判を短期間で終わらせるための新しい乱暴なルールが、今、どんどん作られているでしょう。あんなにバカな映画撮りたいと思っていたのに、今度は裁判員制度の勉強を始めちゃったんです」
お坊さん、学生相撲、社交ダンス、そして裁判と、いつも興味ある題材に素直に向き合う周防監督。彼は、日々どのようなスタンスで過ごしているのだろう。
「映画のための素材探しはしないようにしています。何か映画にできないかなと思い、本を読んだり、世の中を観たりする行為は、自分の中の映画のイメージに、現実を引き寄せて都合よく解釈してしまう気がして嫌なんですよね。そこにある世界を、なるべくそのまま見て興味を持てば、自分の映画のイメージが広がるような気がする。世界を引き寄せるのではなく、世界に入っていくようにしようと。そうしないと職業監督として生産するのに都合のいい題材ばかりを手に入れたくなってしまいますからね。だからコンスタントに作る事はできないんです」
こういう周防監督の姿勢を知ると、今回の作品までに11年かかった理由もわかる気がする。インタビューの最後、自分自身を分析するかのように、周防監督はこう付け足した。 「どういうスタイルでも、結局は、自分が生きている日本に関して、何かを表現したいんですよね」――
次は、どういったテーマで周防監督は日本を表現してくれるのだろうか? 何年後になるかはわからないが、今から本当に楽しみだ。
周防正行
1956年東京都生まれ。立教大学文学部仏文科卒業。1984年『変態家族 兄貴の嫁さん』で監督デビュー。1989年『ファンシイダンス』で注目を集める。1992年『シコふんじゃった。』で日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞。1996年に発表した『Shall we ダンス?』で日本アカデミー賞13部門独占受賞。この作品は全世界で公開され、リチャード・ギア主演によるハリウッドリメイク版も2004年に製作された。そして2007年、11年ぶりの新作『それでもボクはやってない』を発表した
『それでもボクはやってない -SPECIAL EDITION(2枚組)-』 |
(C) 2006 フジテレビジョン アルタミラピクチャーズ 東宝
国領雄二郎(コミュニティ・アド)
撮影:長谷川朗