裁判というテーマを選んだ理由
そもそも、なぜ今回は「裁判」というテーマを選んだのだろうか。
「今までの僕の作品とスタート地点は同じです。興味ある題材を見つけて取材して、映画にするだけ。ただ、今回は"面白い映画"にしたいとは思わなかった。とにかく嘘をつかず、僕が取材で見た日本の裁判の姿をちゃんと描こうとした。"面白い映画"、"良い映画"にしようではなく、裁判を知らない人へ、嘘をつかずに裁判の姿を正しく伝えたかった。これが初めての社会派作品と言われても構わない。でも、現代日本に生きる人たちを描くという部分においては、僕は元々ずっと社会派だったんですよ(笑)」
事実を伝えるのが目的で、面白さを考えていないはずの本作だが、十分すぎるほどエンターテインメントとして成立している。その秘密を監督はこう語る。
「個々のエピソードは単なる事実なんです。例えば、自白をしなければ勾留が続くのも、その方が映画的に面白いからではなく、事実として普通にあることなんですよ。その事実を伝えるためにそうしただけ。私人による現行犯逮捕、起訴されたら有罪率が99.9パーセントという話などは、知らない人も多いですが、全て事実なんです。これらの事実そのものが驚きですよね。それが面白いということにつながった」
そう、とにかくひたすら事実を忠実に描く地味な裁判シーンが多い本作だが、意外な事に、まったく退屈する事なく全編"面白い"。
「裁判自体が、実は面白い物だからですよ。有罪か無罪しかない。引き分けはないんです。判決に至るまでの経過に様々な判決の理由があるに違いない。そこで、観客は全編集中して観てくれる。あの、ラストの判決理由を観客が注意して聞いてくれたらこの映画は成功です」