中田秀夫、清水崇、北村龍平……。海外作品で活躍する日本人監督が出てきたが、塚本晋也は海外に飛び出して撮りたいという衝動はないのか。
「自分が海外の映画祭にヘンテコな映画を持っていって喜ばれたときとかは、日本人はまだまだ自分の国の映画に対するコンプレックスが強かった頃で、ようやく動き始めたという時期だったかもしれません。でも、今はとっくにそんな時期は通り越して、十分世界に通用するレベルにある面白い作品がたくさん控えていると思いますよ。もう、そういう認識が広がって久しい。自分が直接海外に出て撮りたいという思いは、僕の場合、最初から意識していましたが、なぜ、やらないんだ? と問われると、うーん……多分、ハリウッドみたいな場所で作ると、コマーシャリズムの極みみたいなものを撮ることになるわけですよね……。ということは、国内でもコマーシャルみたいな映画を作れない自分に、本当にそれができるのか、という葛藤があるのかな。『海外でなら、できるんじゃない?』という根拠のない幻想を抱くのは甘いだろ、って自分でもブレーキかけていたりする部分もある。ただ、どうしてもそういうオファーはくるんで……。まぁ、自然の流れで、やるべきときが来たらやろうかなって今は思ってます。
でも、最初の一本はなるべくいつものスタンスでやりたいので、ハリウッドの外側で偽ハリウッド映画を作ってから、ハリウッドの内側に入って行くようなやり方がいいかなとも思います。ヘンテコなことって、いざやってしまえば、それが正しいことにもなるんで。『鉄男』を作ったときも、ホラーみたいなギャグを大真面目にやりたい衝動で作ったんですが、典型的なホラーのシーンとかをギャグ感覚でやることの、アメリカバージョンがやりたいかな。ギャグとか物まねとかそういう感じのものを、ものすごい臨場感で描くことは結構得意なほうなんで。アメリカ映画の独特な雰囲気を、ギャグとして作り上げる自信はあるんですよ。劇団の頃の話ですが、英語がまったく喋れないのに日系の外国人のふりをして、仲間と新宿の出店を英語でひやかしたことがあるんですよ。ムチャクチャな英語でまくし立ててたんですが、みんなネイティヴだと思ってました(笑)。あの独特なアメリカ映画の予告編の臨場感を身振り手振りだけで表現するのウマかったですよ。外人がベラベラ早口で喋って、車がガーンときて、ズーンとタイトルがでかく入る、いかにものコマーシャル然とした映像を身振り手振りで臨場感豊かに表すんです。そういうパロディ感覚を大真面目にやれば、そうとう偽アメリカ映画的なものができて面白いと思うんだけどな……」
フラットな語り口。話をしながら、時折、自らの頭の中に浮かんだスケッチに触れたかのうように、一人勝手にほくそ笑んでいるような映画少年が目の前にいた……。小学校の学芸会で「ねじ曲がった性格のサイコ野郎」の役を演じ、物語を作ることの喜びに目覚めた少年は、きっとこの先も、世界をアッと言わせるような作品を作り続けていくのだろう。
塚本晋也 PROFILE
1960年1月1日生まれ 東京都出身 14歳の時に8ミリ映画を撮り始める。1989年、低予算、少数スタッフで制作した『鉄男』がローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。俳優としても監督としても、その作品には定評があり、国内外を問わず熱狂的なファン層が形成されている。
『悪夢探偵』DVDリリース情報
『悪夢探偵』DVDはハピネットより6月22日発売。初回限定生産のプレミアム・エディションにはメイキング、塚本監督インタビュー、製作発表と初日舞台挨拶の様子を収録した特典ディスクが付属する。