最初はもっと暗くてカルトな作品の予定だった
インモラルな空気が漂う中、耳を覆いたくなるくらいのノイズが溢れ、すべてを破壊しつくすほどの暴力がスクリーンを支配する……。観る側が受け入れる受け入れないにかかわらず、暴力的に魂を上下左右に揺さぶり、否が応でも観客は覚醒させられる。
カルト・ムービーの巨匠。彼がそう称されるのは、このエンターテインメントの世界とは極北に位置する、一切観客に迎合しないやり口のせいだろう。しかし、今回の『悪夢探偵』は大分趣が違う。松田龍平やhitomiといった、カルトな世界とは縁遠いキャスト陣が塚本ワールドでアンサンブルを奏でているからだ。
「いや、構想の段階での『悪夢探偵』は、もっと暗くてカルトなインディペンデント映画に仕立てるつもりだったんです(笑)。夜中、こっそりレイトショーやっているような。観終わった後、『うわぁー、濃い映画観ちゃったなぁーー』って、ウイスキー一杯やって帰るしかないような(笑)。ですが、ある段階で、一番お客さんの側に立ってくれるような刑事役を狂言回しとして登場させたら話が広がっていくんじゃないかって思ったんです。それなら演じ手はメジャーな人のほうがうまくいくんじゃないかと決めた。僕の場合、作品作りの際はカルトの部分とエンターテインメントの部分の比率をいつも考えるのですが、今回はそのエンターテインメントの比重を重くした感じですね」
シリーズ化は既に決定、リメイクオファーも殺到
先にも触れたが、劇場公開を待たずに『悪夢探偵』はシリーズ化が決まり、年内にも、続編の撮影をスタートさせる予定だという。
「シリーズ化は、最初の企画段階からやりたいと思ってました。子供の頃、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが好きだったので、ああいうテレビ・シリーズみたいなイメージで、毎回、いろんな人の夢の中に入って何かが起こるみたいな。でも、やっぱり普通の時間帯の放送は無理ですよね(笑)。『ツインピークス』みたいなカルトなやつにしたいと思っていたんで。真夜中にすべての放送が終了したと思って『さぁ、寝ようか』とスイッチを切ろうとしたら、これから始まるみたいな番組。砂の嵐の向こう側から、かすかに子供の声で『たすけて……』って聞こえてくるようなやつがやりたかったんですね」
シリーズ化の話だけではない。実は昨年11月、アメリカのサンタモニカで開催されたアメリカン・フィルム・マーケットで上映して以来、世界各国から同作品のリメイクに十数社の製作会社が名乗りを上げたのだ。ブラッド・ピットの製作会社で、香港映画『インファナル・アフェア』のハリウッド・リメイク『ディパーテッド』を製作したプランBや、ジャパニーズ・ホラー・ブームの火付け役となった中田秀夫監督や清水崇監督の作品のリメイク権を買い上げた製作会社なども含まれており、改めて、いかに塚本作品が海外から高い評価を得ているかがわかる。
「『悪夢探偵』というタイトルを最初に考え付いたとき、これはいいなと思ったんですよ。悪夢と探偵ってよく使われる常套の言葉なんですけど、それを組み合わせると不思議に興味をそそる効果がある。きっと、このネーミングがウケた一番の理由だと思いますね」