最後のセッションは、東急建設による『「墨出し・杭打ちにおける3次元データの活用事例」〜CIMモデルを『わかりやすい!』だけでは終わらせないために〜』と題された講演だ。
登壇した東急建設の土木事業本部 事業統括部 ICT推進グループの小島 文寛氏は、「生産性向上」について話題を切り出した。生産性を妨げるのは業種を問わず、情報ロス、作業ロス、停滞ロス、物流ロス、能力ロス、時間ロス、品質ロスという7つに集約されているといわれているが、建設業において最も重要なのが「情報ロス」だと小島氏は考えているという。情報不足が巻き起こすものとして、情報の不一致によるコミュニケーションのロス、判断のしにくさによる意思決定までの時間ロス、いままで見えていないために発見できていないムダの発生——を挙げた。その改善策が「見える化」で、BIM/CIMなどの問題を発見するのに役立つツールを活用すること、そして問題を発見するための能力の向上、すなわち教育が必要であると述べた。
次にCIMの話題へと移った。国交省が毎年改訂しているCIMガイドラインには、CIMの効果として情報の利活用や設計の最適化、施工の高度化、維持管理の効率化、構造物情報の一元化、環境性能評価などが期待されていると記載されており、設計段階では打ち合わせ(協議)や設計比較検討などさまざまな活用項目で「可視化」による効果が認められているほか、施工段階においても、可視化による危険予知活動や安全対策の向上、可視化ステップによるシミュレーションや施工段階可視化による協議、説明の効率化などの効果が認められたとの記述があることを紹介した。小島氏は、これらの多くは定性的であるという。
たとえば「3次元モデルがあるからわかりやすい」というのは大切なことだとしながらも、そこで止まってしまっていいのかという疑問があるとし、情報ロスを埋めるのに「可視化」「見える化」はとても重要だが、小島氏は「これだけではもったいない」と語った。
とある自動車専用道路の橋梁下部工で河川内に橋脚を構築する工事において、接合箇所の配筋が非常に複雑かつ超過密配筋であったという。小島氏は、確実なコンクリート打設のために、振動機の影響範囲をCIMモデルで作成したところ、所長に「わかりにくい」とネガティブに受けとめられたことを明かした。そこで「何でもかんでも3次元化すれば良いというわけではない」ということを学んだという。しかし小島氏は、「人間が見るからわかりにくいが、ロボットにとってはわかりやすい形である」と考え、CIMはデジタルなのでその効果をもっと活かさなければいけないと考えたという。
続いて、別の現場においての「杭ナビ LN-100」と「BIM 360 Layout」の活用事例を紹介した。BIM 360 Layoutは英語版であるため、現場から「取っつきにくさ」を指摘されたため、日本語による操作マニュアル「BIM 360 Layoutを使用した杭ナビとの連携(iPad簡易版)」を作成したという。手順がひとつひとつ日本語で解説されており、英語が苦手な作業員でもこれを参照すれば必要なボタンをタップして進めていくことができるという。同様に、Navisworksでポイントを追加する手順を解説した「BIM 360 Layoutを使用した杭ナビとの連携(Navisworks版)」も作成し、マニュアル整備の大切さを実感したとのことだ。
また、CIMが「"わかりやすい"だけではもったいない」というのが同セッションのテーマとなっているが、設計から施工までの情報ロスをなくすこともできるという。設計段階でBIMモデルを作り、正確な座標や寸法を設定したものを施工段階で測量機器と連携することで、より効果が高まると断言した。
小島氏は「BIM/CIMはデジタルであるため、それを活かさなければいけない」と前置きしたうえで、「さまざまな事例を聞いて単に"面白かった"で終わらせるのではなく、事例ごとの本質的なポイントや自社で適用するための方法などを整理することが重要だ」と語った。
さらに、日本では「生産性向上」や「働き方改革」が叫ばれているが、「やらされ感のある仕事では、良いものができるはずがない」とし、BIM/CIMを使う人々が「やらされ感」を持たずに「ワクワク感」を持って取り組むことが大切だと語った。そして、組織や職種、階層などの壁を越えて対話を促進するためには、「壁を1人ではなくみんなで壊した方が早く壊れる」と思いを語り、セミナーを締めくくった。
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