野原: 建設産業では人手不足、中でも若手の入職者の確保は喫緊の課題です。若い人に興味を持ってもらうためにできることとは何でしょうか。お考えをお聞かせいただけますか。

豊崎:  当社に出入りする10代の人に話を聞いてみると、職人を選ぶことに躊躇する理由が、「体を壊したらもう働けなくなるから」と言うのです。収入に対してリスクが大きいという印象を強く持っているようです。

吉富:  確かにその通りだとは思います。ただ一方で、われわれが職人という仕事の夢を見せられていないことを痛感して、くやしさもあるのです。体を壊したときのリスクは昔も今も変わらないと思います。私は20数年前に勤めた会社の社長をはじめとして、会社の活気のある様子を見て「自分も独立したい」と憧れました。

ただ、今は憧れよりも、休日がとれるとか、時間通りに終われるとか、それが職業選びで優先されているように感じます。つまり、若い人がリスクを背負って一旗揚げたくなるような夢を見せられていないのかもしれません。

小泉:  私は若い人と建設に接点がないだけかもしれないと思うんです。若い人に将来なりたい職業を聞くと、サッカー選手や野球選手、最近だとユーチューバーなどが出てきます。

こうした職業はテレビやインターネットで触れられるものばかりじゃないですか。じゃあなんでそこに職人が候補に入らないのかというと、小さい頃から職人と接する環境がないからだと思うのです。

私は高校を卒業した後に運送会社に就職しましたが、実際に転職するまで電気工事士の仕事のことはほとんど知らなくて、勉強してはじめて電気工事士のすごさを知ったんです。

そうした自分の体験を振り返ると、建設業が選択肢に入るタイミングは人それぞれですが、接点を早めに持てるような機会創出が必要でしょう。

野原: なるほど。「夢」や「憧れ」はひとつのキーワードになりそうです。建設業のどこに夢を見て、職人の何に憧れるか、という話とも関係すると思いますが、年配の職人さんと話をすると「昔の職人はもっと稼いでいた。職人が所長より稼いでいた時代もあった」という話が必ずと言っていいほど出ます。

現代とは、求められる労働環境や条件は違うとは思うのですが、もし現代の職人が同じように稼げるようになったら若い人は集まるでしょうか?

吉富:  入職する意向は高まると思います。休日や残業の有無、福利厚生の充実具合は、高い給料を望めないのであれば、せめてそうした待遇はしっかりしてほしい。そういう思いが、必ずあると思います。多少の条件の悪さも気にならないくらい稼げる仕事になるのなら、「一発当てたい」と夢を見られる人もいるんじゃないでしょうか。

小泉:  私は電気工事士が稼げると聞いて転職しましたし、実際に前職の時代よりも稼げたのは間違いありません。独立した今は、社員の頑張りに応じて支払う給料を上げることで稼げる仕事であることを暗に伝えているつもりです。昔の職人がどれくらい稼いでいたかはわかりませんし、今も工種によって収入に差があるとは思いますが、頑張っただけ実入りが大きくなる仕事だということは感じてほしいですね。