野原: かつて大工などは稼げる仕事であり、子どもたちの憧れの職業でしたが、最近は残念ながら人気の職業とは呼べなくなっています。
加えて建設産業は、他の産業と比較しても、従事者の高齢化が顕著ですが、一方で入職者、特に「若手の新規入職」の取り組みには苦労をしています。若手に、建設産業での働き甲斐や魅力が伝わっていないのでしょうか? この点について、皆さんの所感や取材先での声があればお教えください。
橋戸: アトリエ系の設計事務所や専門工事会社の方からはリクルートが大変という話はよく耳にしますね。理由はいろいろあると思いますが、学生への認知度が低い点も一因ではないでしょうか。その意味において、SNSを使って仕事内容や魅力を発信していくことは有効だと思います。
動画サイトに一つの建築が出来上がっていく過程をドキュメンタリーとして公開するといったことも行われていますよね。加えて、福利厚生の充実や子育て支援の充実など、働きやすい環境を整備することも求められると思います。
また、最近では建設業に特化した人材派遣や求人サイトもあるので、そういったWebサイトに建設産業の魅力が分かるコンテンツを掲載していくことも有効ではないでしょうか。
佐藤: 20年前、大工は小学生が憧れる職業のトップ10 に入る仕事でしたが、今は圏外になりました。それは、間近に大工が働く姿を見る機会が少なくなったのが要因の一つでしょう。一方、若い建設業の技術者に聞くと、工事が完成した時の達成感や地域の人たちに喜ばれることが、誇りだと言います。
実際に働いている方が魅力ややりがいを感じているのは間違いないと思います。ついこの前も高校生が参加する技能実習の取材に行きましたが、みんな目を輝かせていて、リアルに体験することが、魅力を知る近道だと実感しました。
牧野: 地道な発信が大事だと思っています。これまではテレビCMを打たないと建設会社のことを知ってもらえませんでしたが、今はSNSやホームページで情報を伝えられます。群馬県建設業協会が3月の大雪の際に除雪の様子をX(旧Twitter)で発信したところ、5000を超す閲覧がありました。
建設にも関連するある会社が、2022年からイラストを使ったコンテンツを毎日アップしていたら、フォロワーが5000人に到達したそうです。この会社の経営者が学校説明会に訪れると、SNSがきっかけで知ってもらえた学生がいたと聞きました。情報発信に対して建設産業は、もっと能動的になってよいと思います。
積極的に若者を採用している鳶工の会社では、親御さんから業務が危険そうだと入社を反対された内定者がいました。その内定者から「両親を説得してほしい」と頼まれたそうです。その会社のホームページでは、まず第一に安心・安全について述べてあり、その次に事業内容や会社概要が続くという構成にしています。そうした例を出しながら、とにかく安全を大事にしていると猛烈にアピールし、また十分な休みも取れるなど、働き方につ いても伝えたところ、説得がうまくいって、「息子をよろしくお願いします」と頭を下げられたと言っていました。
建設はBtoBのビジネスですが、最終的な発注者やユーザーはCになります。一般人や社会に向けた意識を高め、自分たちの仕事を発信することも大切です。専門紙ではありますが、一般市民への魅力発信にも貢献していきたいと思っています。
野原: BtoCの視点はおっしゃる通りで、みんなが意識し始めているところだと感じています。上場ゼネコンなどでは、メディアを通した発信を増やしていて、基本的な認知の底上げに努めています。一方で、この産業の印象や認知度をどのように変えていくか、一般消費者とのギャップもあり、さらなる取り組みが求められます。