野原: 働き方改革も建設産業で求められているところですが、建設現場はいわゆる「3K」(キツイ・キタナイ・キケン)と言われてきました。高齢化もあり優秀な技能工の数が減る、あるいは技術継承がされないことについて、どのようにお考えでしょうか。
例えばCCUS(※7)は、「職人の賃金を上げる」ことを目的として始まり、業界団体も登録を呼びかけています。一方で建設現場からは登録したものの、実際に賃金アップにつながっている実感がないという声もあり、ギャップが生じています。
新・担い手3法など政府の姿勢も変わりつつあり、今後、高齢化で労働の需給がタイトになると自然と賃金が上がるという見方もありますが、こうした問題を乗り越えるために、国や業界団体の打ち手として、どのようなことがあると思われますか。
※7 CCUS:建設キャリアアップシステム。技能者が、技能・経験に応じて適切に処遇される建設業を目指して、技能者の資格や現場での就業履歴等を登録・蓄積し、能力評価につなげる仕組みのこと
牧野: CCUSに対していろいろな意見があることは事実です。とはいえ登録者数は間違いなく増えていますし、規模のインパクトは確実にあります。
働く方たちが処遇の良い職場を選んでいくためには、どういう現場でどういう経験をしてきたのかをしっかりと説明する必要があります。それがあるからこそ、「こういう報酬をもらうべきだ」と言えると思うのですが、今まではなかなか難しかったはずです。これまでの経験を客観的に見える化するCCUSは大きな力になるはずです。
昔から優秀な職人は、良い相手や良い仕事を選んできたでしょうし、これからも同様でしょう。現状は生みの苦しみの時期かもしれませんが、専門紙としてCCUSをプラスに活用していくプレイヤーをしっかり情報発信していきたいと思っています。
佐藤: 2024年2月末時点におけるCCUSの技能者登録数は約140万人。技能者全体が約320万人と推計される中、登録率は4割を超えています。大手ゼネコンから聞いたところによると、現場への入場者の約 75%が登録しているとのことなので、大手ゼネコンが手掛ける現場ではほぼ目標に達しています。
片や住宅工事や、地域の建設現場で働く方の多くは未登録と見られます。また、就業履歴(カードタッチ)数はまだ十分に増えておらず、本来の目標には道半ばです。
要因の一つは能力評価制度(レベル判定)の申請が低調であるということ。レベル1から最高4まで段階的に上がる仕組みですが、登録しただけで能力評価の申請をしないのでレベル1のままというケースが多いようです。2023年2月時点の登録者111万人のうちレベル1は93%を占め、レベル2以上は7%にとどまっています。
国土交通省は、2024年4月以降はワンストップで登録とレベル判定ができるよう仕組みを変更する予定です。CCUSが普及し、本来の目的を達成できると、賃金アップにつながると思います。
野原: 2023年夏の登録者数は90万人程度だったので、着実に増えているようですね。
橋戸: 大規模言語モデルやチュートリアルの充実などが役立つのではないでしょうか。例えば、RC工事のポイントや注意点を教えてくれる大規模言語モデルがあれば、そこに質問を投げ込むことで回答が得られ、それに付随するチュートリアルの動画が見られるといったサービスは増えてくると思います。
また、VRやMRなどを使ったチュートリアルが体験できる仕組みができれば面白いですよね。もちろん、大規模言語モデルからの回答やチュートリアル動画だけでは完全な技術継承は達成できないと思いますが、ある程度は役に立つのではないでしょうか。
また、標準化も有効ではないかと思います。建築は一品生産品なので、全てを標準化することは難しいと思いますが、生産性向上や品質確保の点から考えても標準化を進めることは意味があると思います。
野原: チュートリアルの話は面白く、個人的にはそういう方法は有効だと思いました。一方で標準化については、例えば、標準詳細図がない現場があまりにも多いのは、建設産業の課題です。多くのことをその場で決めて、一品生産で作れば間違いだって起きやすくなります。標準を決めておくことでトラブルの解消につながりますから、海外でも標準化が増えてきていると理解をしています。
橋戸: おそらくですが、ゼネコンの利益の源泉が一品生産に由来する部分があるのかもしれません。