野原: BIMの導入によって、建設産業の流儀はどのように変わっていくのでしょうか。

志手: 大きな意味でのコミュニケーションは変わりますよね。設計側でやりたいことが明確に現場に伝わり、差し戻しも少なくなる。効率化が図れるから、人材不足で悩む産業にとっては大きな意味があります。

野原: 発注者、設計者、元請け、下請けなどのプロジェクトのメンバー同士の関係性は、どのように変わっていくでしょう。

蟹澤: これまで元請け、下請けなど重層的に重なり、小さな会社や一人ひとりの存在は、その下に隠れていました。そもそも仕事が細分化されすぎていたといった問題もあります。例えば現場の職種は、ヨーロッパやアジアでは躯体式工事と湿式工事と乾式工事と設備など大分類で分けていますが、日本では、マンションを例にとれば、発注する職種は100くらいあります。

壁の下地の人と、ボードの人とクロスの人が違うとか、コンセントの配線をする人とコンセントカバーをつける人が違うとか。こうした細分化の無駄な部分もBIM化によって明らかになり、現場の人も効率的に働けるようになるはずです。

また、BIMをはじめ、デジタル化によって、そうした一人ひとりに光があたるようになると思います。役割や能力もはっきりと評価できるようになり、川上から川下まで、建設産業で働く人はやりがいを感じられるようになるはずです。

野原: それは建設業の仕事の面白さを取り戻すことにもつながりそうですね。

蟹澤: これまで、デザインや設計とものづくりの現場は分断されていましたが、BIMによって再統合され、最も面白い「創る」という作業が戻ってくると言えるでしょう。

例えば、3Dプリンタを思い浮かべれば分かりやすいと思いますが、BIMを機械とつなげばいろいろな加工ができるようになっています。欧米の大学、最近はアジアでも、デザイナーや設計者が自分たちで作り始めるようになってきました。社会課題を解決するアイデアを、設計に落とし込んで、施工にまでシームレスにつなげやすい、誰しもものづくりを楽しみ、社会の役に立てられる世の中が生まれるかもしれません。

志手: 実際、アメリカの設計事務所は、工房を持つところも増えてきました。内装や施工まで自分たちでやるところが増えていますよね。ただ、どれだけDXが進んでも、AIが高度化しても、恐らく建設産業は、いい意味でも悪い意味でも労働集約的な産業なので、人間の仕事はなくならない。

ベーシックな知識はみんなで共有しなければいけない。これまでの建設産業は、それが弱かったと思います。要はOJTに頼りすぎて、会社の常識は知っているが、建設産業の常識は知りませんでしたということになっている。

DXは、会社の垣根を限りなく低くしていくので、本質的に必要な知識を身に付けることが重要になってきます。それができた人が輝く、そんな世界になるでしょう。

蟹澤: 志手先生の話を聞いて思ったのですが、実は建設業は地域性の高い仕事。能登の震災でも、テレビには映らないけど、真っ先に建設会社が道路の片付けなどをしている。実は準公務員のような町全体を考える素晴らしい仕事です。

デジタル化によって、東京に出てくる必要性は次第になくなってきているので地域密着の働き方もやりやすくなります。すでに、地域で活き活きと働く若い人を見かけることも増えました。DXの分野では、こういう人たちの活動をサポートできることはたくさんありそうですね。

野原: 本日はありがとうございました。

  本連載は、『建設DXで未来を変える』(マイナビ出版)の内容を一部抜粋したものです。
書名:建設DXで未来を変える
著者:野原弘輔
書籍:1100円
電子版:1100円
四六版:248ページ
ISBN:978-4-8399-86261
発売日:2024年09月13日