国内のDXビジネスの現状

日本マイクロソフトのクラウドビジネスが拡大している。

2021年から「Revitalize Japan (日本の再活性化)」を最優先課題に掲げ、DXの基盤となるMicrosoft Azure、新たな時代における働き方改革を推進するMicrosoft Teams、ローコード/ノーコードによる市民開発を促進するPower Appsなどを通じて、日本の企業のDXを支援。その成果が表れている。

同社の事業年度は、7月からスタートしており、2022年度(2021年7月~2022年6月)は、クラウドビジネスが業界全体の成長を上回る実績になっているという。その結果、クラウド市場におけるシェアも拡大。さらに、Windows 11を搭載したPCであるSurfaceも高い成長を遂げているという。

この1年で顕著に見られたのが、DXに関するひとつひとつの商談の規模が拡大している点だ。

企業の効率化や再活性化への取り組み、市場へのアプローチだけでなく、テクノロジー面での協業を含めて、企業の中期経営計画の根幹に関わる形で、DXに取り組む案件が日本でも増加しているという。また、DXを起点にして、新たな領域にまで踏み込んだ共創も増加しているという。

たとえば、三井住友フィナンシャルグループとは、クラウド分野における複数年にわたる戦略的提携を締結し、Azureを活用したIT 環境のモダナイズや、ミッションクリティカルなワークロードのサポートのほか、従業員のデジタルスキルの向上や、アジア太平洋地域におけるデジタル取引とサプライチェーンファイナンス分野への取り組みを支援することになる。

NECとの戦略的協業では、NECのデジタルワークプレイスによる働き方改革を支援するほか、企業や公共機関などの顧客に対して、クラウド導入やDXの加速を共同で支援し、とくに、NECが持つAIやローカル5G技術などのアセットを活用した提案を強化していくという。

  • 戦略的パートナーシップを発表するNECの森田隆之社長兼CEOと、米マイクロソフトのサティ・アナデラ会長兼CEO

また、ソニーとの戦略的提携では、クラウドベースのゲーム体験や、AIソリューションの開発といった協業を進めてきたが、先ごろ、ソニーが発売した耳をふさがない構造の完全ワイヤレス型ヘッドホン「LinkBuds」では、マイクロソフトの3Dオーディオマップアプリ「Microsoft Soundscape」との連携によって、街歩きの際にスマホを手に持たずに、目的地の方向をビーコン音で認識できるサービスを提供している。モノづくりの観点にまで踏み込んだDX事例といえる。

  • ソニーが発売した耳をふさがない構造の完全ワイヤレス型ヘッドホン「LinkBuds」

さらに、富士フイルムデジタルソリューションズでは、Microsoft Dynamics 365を主力とした基幹システムの販売および導入支援ビジネスに新規に参入。今後、複合機事業に次ぐ中核事業に成長させていく方針を打ち出した。同社では、自らが基幹ステムを刷新したり、DXに取り組んだりしてきた経験をもとに、顧客に対してもDXの提案を加速していくものになるという。

だが、DXに対しては、企業によって温度差があるのも事実だ。

官公庁や自治体のDXもこれからが本番であり、企業においても、デジタル化はしたものの、DXにまで踏み出せていない企業がまだまだ多いのが実態だといえる。政府のDXレポートによると、DXに取り組んでいる日本の企業はわずか13%に過ぎない状況だ。

  • DXに取り組んでいる日本の企業は13%に留まる

さらに懸念材料もある。これまでは、コロナ禍における新たな働き方の浸透などに伴って、IT産業には追い風の部分が多かったともいえるが、ここにきて、様々な外的要因の影響が、逆に向かい風となって吹き始めたともいえるからだ。半導体不足や材料費の高騰といった影響、円安の動きなどは、IT産業だけでなくあらゆる産業に影響している。先行きの不透明感を背景にIT投資を抑制しようという動きが一部に出始めている。コロナ禍での新たな働き方に向けたIT投資も一巡したこともマイナス要素になる。

日本マイクロソフトでは、こうした要因がDX促進の足かせにならないように、日本における投資をさらに強化していく姿勢をみせる。

日本マイクロソフトが力を注いでいる取り組みのひとつが、Microsoft Power Platformによるローコード/ノーコード開発の促進である。

ローコード/ノーコード開発に対する関心は想定以上に高く、Power Platformを使ってみたいという企業が急激に増えているという。

その理由のひとつに、日本ではユーザー企業内の技術者が少なく、市民開発者の活用が重要なテーマになっている点があげられる。そこにPower Platformが貢献しているというわけだ。

いくつかの事例も出ている。

経済産業省では、gBizFORMにおいて、行政手続きのオンライン化に取り組んでおり、Power Platformを用いて、現場でシステム開発を行い、時間削減やコスト削減につなげているという。また、トヨタ自動車では、5000人以上がPower Platformの社内コミュニティに参加し、市民開発を促進。その成果のひとつとして、プログラムの知識を持たない5人の社員が、遊休設備マッチングアプリ「とまっち。」を2週間という短期間に開発し、遊休施設の有効活用につなげたという。同アプリにより、資産損失抑制効果は数億円、資産転用先の検討時間は約50日も短縮し、管理スペースは東京ドーム半分にあたる約5000平方メートルもの削減が実現できたという。

  • 経済産業省のgBizFORMポータルサイト

  • トヨタ自動車が開発した「とまっち。」

これまでにも神戸市がコロナ禍において、「特別定額給付金の申請状況等確認サービス」をPower Platformにより短期間に開発した例などがあったが、公表できる事例が少ないという実態もあった。今後は、こうした事例の紹介を通じて、Power Platformの効果を訴求していくことになるという。

また、Power Platform を積極的に提案しはじめているパートナーが増加していることや、Microsoft Build 2022では、新たに発表したPower Pagesにより、誰でも簡単に、スピード感を持ってウェブサイトを作成できる環境を実現。日本の企業や官公庁、自治体、学校などでの活用提案を加速する考えだ。