主観的評価+客観的評価で「非認知スキル」を数値化・客観化し変化を見る

授業はまず、宇宙飛行士・山崎直子さんによる説明動画から始まる。宇宙飛行士がチームワークなどいわゆる人間力を大切にし、能力を磨いていること、学校で生徒たちがこのプログラムを通して「なりたい自分」に近づけることなどについて語られる。その後、生徒たちは客観的な能力を測る「スキルチェック」を行う。36問の設問に対して、宇宙飛行士の行動を模範とした場合、「どう行動するのが良いと思うか」という観点から選択肢を1つ選んでいく。

次に、時間をあけ、「セルフチェック」を行う。こちらは自分の能力を主観的に判断するもの。60問の設問に対して、自分がどれに当てはまるのかを5段階から選ぶ。

こうして主観的・客観的に自分の非認知スキルをチェックした後、探究活動や修学旅行、文化祭などの教育活動を行う。その後、再度「セルフチェック」を行う。スキルチェックやセルフチェックの結果や教育活動前後の変化は「レポート」の形で後日学校に送られてくる。その結果をふまえ、生徒自身が今後の目標などを「振り返りシート」に記入する。教育活動の前後でセルフチェックに変化が出た場合は、何が影響してそうなったかを考えさせる。この振り返りが、今後の自分の行動につなげるためにもっとも大事なポイントだそう。

スキルを測る物差しのベースになっているのが、宇宙飛行士に求められる8つの能力である。NASAやJAXAなどが宇宙飛行士として望ましい行動と心構えをもとに「自己管理」「コミュニケーション」「異文化理解」「チームワーク」「状況認識」など8つの能力を定義しており、宇宙飛行士選抜や訓練でこの能力があるかどうかをさまざまな手段で評価している。

つまり、宇宙飛行士に求められる能力という正当性の物差しを作り、今まで定義の難しかった非認知スキルを可視化し、成長したかどうかを評価できるのが、このDiscoveRe Methodの最大の売りのようだ。

私もデモ用のテストに取り組んでみたが、中高生向けとは言え、社会人でもなかなか考えさせられる設問が多い。例えば、スキルチェックでは「やる気が出ない時はどうしたらよいですか」という設問に「やる気が出ない理由を考える」という選択肢を選びながら、そうできない自分を「だからダメなんだ…」と一人振り返る。一方、セルフチェックの「対人コンフリクト管理」の項目では「もめ事が起きても冷静さを保つことができる」の設問に5段階で2をつけざるを得なかった。自分の弱みを数値化することで、次はなんとかしようと思えるような気がした。

JAXAの協力を得つつ、Space BDが宇宙用の言葉から教育用の言葉にコンテンツを落とし込む作業を共に行ったのが、教育事業で約90年の歴史をもつZ会グループだ。コンテンツ作りで苦労したのはどんな点だろう?

  • DiscoveRe Method

    Z会ソリューションズ事業開発室 瀬戸裕一郎室長

「実際にNASAやJAXAで定義されている宇宙飛行士に必要な能力は、英語で記述されています。それを小学生や中・高校生にどういう言葉で伝えれば正確に伝わるのか、ものすごく時間をかけて検討し、質問文を完成させました」(Z会・瀬戸氏)

具体的には、宇宙飛行士に求められる「自己管理」や「コミュニケーション」などの8つの能力から、実際にどんな行動をとるのかを示した96の行動マーカーがある。その意図がずれないように、例えば小学生にわかる言葉でどう提供すればいいのか。「JAXA専門家と非認知スキルの専門家である星槎大学客員教授(OECD・PISA読解力調査専門委員)北川達夫先生や中学高校の先生、教科書を編集されてきた先生方と共に作り上げました」(Z会・瀬戸氏)

そもそもZ会グループは、この事業にどんな可能性を感じて参画したのか。「弊社のグループでも学力の3要素のうち、知識・技能以外の主体性や多様性、協調性などをどう測定するか、どう伸ばしていくかについて、アセスメント(評価)を開発していました。非認知スキルについても質問紙形式で評価するなどの活動はしていましたが、趣旨やメリットを学校に理解していただくのはなかなか難しかったのです。今回、わかりやすくていいなと思うのは宇宙飛行士が活動する上で大切な事柄が何であるかを、生徒さんがイメージしやすい点です。宇宙飛行士は、多種多様な文化背景を持った方同士が協調しながら活動して成果を出すわけですから、非認知スキルの重要性について、具体的に説明することができるのです」と瀬戸氏は語る。

社会でこれらの能力が必要とされるのはわかるが、知識偏重の大学入試が変化しない限り、教育現場を劇的に変えるのは難しいのではないだろうか、という疑問が浮かぶ。

瀬戸氏によると、大学入試も変化しているという。「国公立大学をはじめとして『総合型選抜』が増え、国立大学協会も定員の3割を総合型選抜からの合格者とする、と明言しています。たとえば京都大学では、高校時代にどういう研究をしてきたかという『学びの報告書』を書かせていますし、東京大学法学部ではグループディスカッションが取り入れられています。京都大学の場合、テーマを深く探求するには考えて行動する力が求められますし、東京大学法学部の総合型選抜でのグループディスカッションでは、きちんと相手の意見を受容した上で自分の意見を伝え、最終的にみんなの意見を統合することが求められる。付け焼刃ではなかなか磨けない能力です」(Z会・瀬戸氏)つまり、非認知スキルを早い段階で鍛える必要があるということだ。