タレント・ストラテジーの再構築

最後のテーマは、「タレント・ストラテジーの再構築のあり方」だ。

小野氏は、「今後、タレントや個人が非常に大事になっていく時代において、どういったタレント・ストラテジーを構築していくのかについてお話したいと思います」と切り出した。

その検討のアプローチについて小野氏は、DXを推進していくアプローチと同じではないかと考えているという。

不確実性が非常に高く状況が随時変わっていく中で、いかに今後の恒常的なワークスタイルのあり方を考えていくのかは難しいことではあるとしながら、「まず大きな絵を描いた上で、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら小さく始めて、最後に横展開をしながら検証していくというイメージになるかと考えています」(小野氏)とのことだ。

  • 検討のアプローチ

小野氏が所属するDTCでは、働き方のニューノーマル・コンセプトメイキングに関して、ワークスタイルは個別の人事施策のみならず、全社的な施策であり、非常に幅広い施策だと考えているという。

また、施策に加えてカルチャーそのものを変革していく動きでもあると考えているとのことだ。

企業では、人事部門のみならず、ビジネス部門、経営企画部門、IT部門などがチームを組み、ワークスタイル変革のプロジェクトを推進しているが、これらを束ねて従業員が納得するようなコンセプトをまずは描き、それをブラッシュアップしていくことが大事だと小野氏は指摘する。

企業が、従業員に安心して働いてもらう、あるいはいい経験を組織の中で提供するようといった観点から、エンプロイー・エクスペリエンスという考え方がコンセプトとして出てきているという。

エンプロイー・エクスペリエンスとは、入社前から入社後、多様な経験の中で個人の主観、その組織で働きたいと思うような主観を蓄積していくことであり、この観点から多様な施策や業務のプロセスをデザインしていくという考え方であって、日本でもここ数年、浸透してきているとのことだ。

  • エンプロイー・エクスペリエンスとは

エンプロイー・エクスペリエンスを考える場合、報酬のみならず、有意義な仕事あるいは支援的なマネジメント、職場環境、成長の機会、リーダーシップに対する信頼感、こういった多面的な観点から考えなければならないと小野氏は解説する。

さらにCOVID-19の状況下では、従業員がさまざまな局面で感じる幸福感や悩みなどについても踏まえながら施策を検討する必要があるという。

具体的には、従業員が何かに困っていて生産性を落としている、出社する必要は無いのにわざわざ出社している、リモート会議に慣れていない参加者がいるため議論が進まないなど、幸福感や生産性を下げているさまざまな要素があるのではないかと小野氏は指摘した上で、「おそらく職種別に異なっていくと思いますが、いろいろな観点からこのへんを整理していくというのがまず大事かと思います」(小野氏)と提言する。

  • ポジティブなエンプロイー・エクスペリエンスに貢献する要素

ニューノーマルの時代においてあるべき姿については、最新のテクノロジーを使えないか、あるいはチームでのコラボレーションをもっと促進できないかという観点も含めてデザインしていくことが初手として大事ではないかと指摘する小野氏は、「こういう一貫したジャーニーの中で、ハピネスを上げる施策を考えていくことなのかなと考えます」と語った。

COVID-19の状況における各社と議論しているという小野氏は、技術的には多くの仕事をリモート化できる一方で、オンサイトで会う価値が高まっているのではないかという議論が持ち上がっていると解説する。

現在はリモート化があまり進んでいない、紙のやり取り・押印など人の手でしかできない業務は今後無くなっていくのではないかとしつつ、実際に会う価値があるケースとして、アイディア出しやセレンディピティ、ブレインストーミング(ブレスト)、信頼関係の構築や感情に触れなければならない時を挙げた。

  • リモート化とオンサイトの切り分けの例

その他、機密情報を扱うPCがネットに接続していないケースなど各社各様だとしながら、「リモートでできる業務、リアルでやらなければできない業務を整理していくことが必要と思います」(小野氏)と指摘する。

新しい働き方にふさわしいタレント・ストラテジーのあり方を再構築する必要があると解説する小野氏は、「エンプロイー・エクスペリエンスあるいは高頻度なフィードバック、それからテクノロジーの活用、スマートワークと、いろいろな要素を踏まえながら、統合的に検討していく必要があるのではないでしょうか」と語る。

具体的には、採用・配置・退職といった人材フロー、人事の諸制度、それ以外の人事施策、ツールといった多様な要素によって、新しいやり方を再構築していく必要があると解説する小野氏は、「ちょうど各社とも、今リカバリーの時期ということで、ちょうど今いろいろな検討を推進されていると認識しています」と講演を締めくくった。

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