パワエレにおけるコンデンサの用途
すでに述べたように、コンデンサについては、電力変換器または電力インバータのDCバスでの用途が重要です。Al電解タイプとフィルム・タイプのコンデンサを選択する上では、「ライドスルー」または「ホールドアップ」の必要性が差別化要因になります。
各タイプの適合性を確認するための例を見てみましょう。事前に力率が補正された、90%の効率性の1kWオフラインAC-DCコンバータがあるとします。内蔵DCバスは400VDC公称で動作し、図5に示すように、300VDCに低下した時点でコンバータによる調整が停止します。
停電時に20msのライドスルーが必要になる場合は、DCバスにコンデンサを置いてコンバータからエネルギーを供給し、停電から回復するまで1kWの出力で動作を継続させる必要があります。必要な静電容量(C)を計算するには、コンデンサ内のエネルギーが400V(Vn)から300V(Vd)に低下した場合の差異を同等と見なし、コンバータに供給するエネルギーを、電力(Po)に時間(t)を乗算し、効率(η)で除算することで求めます。
TDKの製品ラインから従来型のハイグレードコンデンサB43508シリーズを選択した場合は、約52cm3になります。同等グレードのフィルム・コンデンサTDK B32678シリーズを使用して、全体的な静電容量と電圧定格を同じにするには、1600cm3の合計容量で16個を並列に接続させる必要があり、サイズ差は実に約30倍となります。
ライドスルーが要件でなくても、EV用途のように、400VDCバスでのリップル電圧を最小にするためにコンデンサを使用する場合、その標準値は、最大リップル電圧4V rmsのダウンストリームの20kHzコンバータから得られるリップル電流(Irms)により、80A rms程度になります。静電容量Cの概算値は次のように計算できます。
この結果から、μFあたり20mA定格のコンデンサについて一定の経験則が得られます。TDK B43508シリーズには、180μF、450V定格で、周波数補正係数を含め、リップル電流定格が60℃で3.5A rmsの小型で低コストのコンデンサがありますが、80Aのリップル電流に対して23台を並列させることで、4140μFの合計容量と約621cm3が不要になるため、パッキングの妥当性が低下します。
各コンデンサのESRは3.5A rmsで約1Ωであり、それぞれ約10W損失します。TDK B32678シリーズのフィルム・コンデンサの場合は、4つを並列させることで合計160μF、450Vによって132A rmsが得られ、容量は402cm3になります。
コンデンサのESRは2.5mΩで、それぞれの損失は1Wです。ここでは損失が少なく、過電圧に対する耐性が高いため最適な容量が得られ、4140μFよりも、エネルギーの突入が少ないことから、逆にフィルム・コンデンサが適切な選択肢になります。フィルム・コンデンサは終端が容易なリード線付きボックス・スタイルであり、必要な数は4つだけで済みます。
コンデンサについては、物理的な容積や損失よりもコストのほうが大きな決定要因になる場合があります。そこで2台の同じTDKシリーズのコンデンサを使用して、ジュール単位のエネルギー貯蔵量と、アンペア単位のリップル電流定格を比較してみます。
約180μF 450V定格の高レベルのサービス提供元[3]によるデータによれば、エネルギー貯蔵のコストは、Al電解タイプでは約0.47ドル/ジュール、フィルム・タイプでは3ドル/ジュールになります。リップル電流については、Al電解タイプは2.68ドル/アンペア、フィルム・タイプは0.42ドル/アンペアです。これは、約6:1のコスト上の優位が、特定用途の要件に応じて逆転する場合があることを示しています。大容量の場合は、コストの絶対値は低くなりますが、比率は同等です。
スナバとしてのフィルム・コンデンサ
電力変換でコンデンサが有効な用途としては、「緩衝」も挙げられます。これは、スイッチング波形の切り替えを意図的に遅らせて、EMIと半導体のストレスを軽減させるものです(図6)。ここで最も重要になるのが、高いrms電流がコンポーネントに流入する、高い電圧変化率(dV/dt)に対するコンデンサの耐性です。ここでも、特に金属化が両面で行われ、金属箔と組み合わせて高電流に対応する場合には、ポリプロピレンが適しています。通常この用途向けのコンデンサは、ACにおける低インピーダンスに対するインダクタンス終端が非常に低く、高電圧に対する耐性が高いため、ピーク電圧が予測できない場合にも対処します。
電力フィルタとしてのフィルム・コンデンサ
多くの場合、フィルタリングは信号レベルの機能であると見なされていますが、特にインバータやモータ・ドライブでは、出力コンデンサから高リップル電流が送出され、ストレスEMIの原因となるケーブルでの高dV/dt値を抑制します(図7)。負荷にACが流れるため、コンデンサは無極性であることが必要で、Al電解タイプは使用できません。コンデンサを導入する環境は過酷な場合が多いことから、ポリプロピレン・コンデンサの堅牢性、リップル定格、体積効率が必要になります。
EMIフィルタ
フィルム・コンデンサは、電力線用EMIフィルタで広範に使用されています。それはフィルム・コンデンサのリップル電流定格よりも、過渡電圧に対する自己修復特性が重視されるためです(図8)。安全性審査機関ではポリプロピレン・コンデンサは一般的に「X1」または「X2」と評価され、それぞれ4kVおよび2.5kVに耐性があり、EMI規格に適合するμF値が得られます。コモン・モード放射を減衰させるline-to-groundのコンデンサは8kVおよび5kV定格の「Y1」および「Y2」タイプですが、回線のリーク電流の値によって制限を受けます。こうしたEMIフィルタリング用途では、自己インダクタンスが低い一般的なフィルム・コンデンサが優位であり、自己共振を高く維持できます。
結論
フィルム・コンデンサは、パワー・エレクトロニクス分野でさまざまな用途に利用でき、特に高いリップル電流定格が要求される場合、または過電圧ストレスが生ずる環境では、ポリプロピレン・タイプが適しています。フィルム・タイプとアルミニウム電解タイプのCV定格を比較した場合、詳細な分析によれば、単純なエネルギー貯蔵にはAl電解タイプが適していますが、実際にコンポーネントを選択する際には、フィルム・タイプが適している場合もしばしば見受けられるため、リップル電流定格や信頼性も考慮に入れる必要があります。
参考資料
[1] https://en.wikipedia.org/wiki/Film_capacitor
[2] https://www.electrocube.com/details/capacitors-for-switching-regulators-filters
[3] https://www.mouser.com