Adobeがデジタル・マーケティング市場に参入したのは2009年。Web解析ソリューション・ベンダーのOmnitureを買収したのがきっかけだ。その後も、コンテンツ管理のDay Softwareやキャンペーン管理のNeolaneなど、デジタルマーケティング・ソリューションを提供するベンダーを買収し、製品ポートフォリオを拡充してきた。同社では、これらを包括的なマーケティングソリューションとして「Adobe Marketing Cloud」を提供している。
Adobe Marketing Cloudの強みは、Omniture時代の顧客を継承しているだけでなく、同社のクリエティブソフトである「Photoshop」や「Illustrator」とクラウド環境で連携していることだ。ナラヤン氏やレンチャー氏が「“質の高いコンテンツ”が差別化ポイントになる」と強調する背景には、コンテンツ制作からマーケティング施策までを一気通貫で提供できるという自負がある。
Marketing Cloudの業績は好調だ。2015年における同製品の売り上げは、ワールドワイドで前年対比25%増となっている。また、Fortune 500のうち約70%が、Marketing Cloudを導入しているという。基調講演後半には、同社の顧客企業が登壇し、自社の取り組みを紹介した。
その1社が米マクドナルドである。同社は18カ月前からさまざまな改革を断行している。メニューのレシピから商品構成、さらにデジタル・マーケティングの手法も大幅に見直したという。登壇した米国マクドナルドで最高マーケティング責任者(CMO)を務めるデボラ・ウォール(Deborah Wahl)氏は、「これまでのマーケティング施策の反省は、マスマーケティングに注力し、個人のお客様にアプローチする『One on One』を重視していなかったこと」と語る。
こうした反省を踏まえ、同社は1,000万ドルを投じてモバイルアプリを構築した。さらに、2,000店舗でレスポンスタイムを測定し、ユーザビリティを確認したという。
ウォール氏は、「企業ブランドは、サービスの質、商品のクオリティ、利便性などで決まる。マクドナルドの商品は“食品”というデジタルで提供できないものだが、デジタルでどのように顧客に価値を訴求していくのかを考えなくてはならない。そのためにもOne on Oneマーケティングで、顧客一人一人の体験を向上させることが課題だ」と語る。
ソーシャルメディアにはマクドナルドに関連する単語が、1秒に2回の頻度で登場するという。ブランド認知度は(おそらく)世界一の同社だが、「SNSでのデータをどのように活用し、次の施策に反映させるかも今後の課題」とのことだ。
一方、自社サイトを最適化し、パーソナライズされたコンテンツを提供することで個人顧客の取引を大幅に向上させたのが、英国の老舗銀行であるロイヤルバンク・オブ・スコットランドだ。300年の歴史を誇る同行だが、デジタルアナリティクスを統括するジルズ・リチャードソン(Giles Richardson)氏は、「300年の歴史ある銀行だが、顧客がサイトで過ごした10秒間を重要視している」と語る。
同行が注目したのは、サイト上に残された顧客の行動履歴の分析と、分析結果データをデータ分析部門全員で共有することだ。さらに、Webサイトだけでなく、モバイルアプリもパーソナライズされたコンテンツが表示されるようにし、顧客とのエンゲージ強化に注力した。また、個々の取引に対するメッセージもリアルタイムで送信できる環境を整えたという。
リチャードソン氏は「データアナリストとデジタル・マーケティングマネージャーが情報を共有し、顧客のカスタマージャーニーを理解し、(顧客に)何が起こっているのかを把握することが重要である」と説く。そのためには、施策に対する測定と分析を繰り返し、適切なターゲティングとフィードバックが不可欠だ。同行ではこうした施策をMarketing Cloudの「Analytics」「Experience Manager」「Audience Manager」などを活用しアジャイル開発で構築しているという。
今回のコンファレンスでは、「Adobe Marketing Cloud」の追加機能も発表された。同情報については追って詳説する。